ケットシー物語 トラスロット奔(はし)る 7
「お姉ちゃん達、なんで耳と尻尾がないの?」
サクラーノが不思議そうに聞く。
「わたし達が人間だからだよ、人間は頭の上に耳が無いし、尻尾も無いからね」
「人間?」
首を捻るミケラとサクラーノ。
「見た事ない?」
「うん」
二人とも頷く。
ケットシー王国の王都に住む人間は少なく、殆どが王宮か魔法道具研究所にいるので、ミケラ達が外にいる時間に街に出てくる事はあまりないのだ。
ミケラはお城から抜け出している事が多いので、お城の中で出会う事もない。
他にもドワーフやエルフもいるが、やはり自分達のコミュニティーから出てくる事は滅多にないので、ミケラ達は存在すら気がついていなかった。
「でもよ、泊まっていた旅館の仲居さんに人間いたし、宴会のお客さんは殆ど人間だったぞ」
チャトーラが指摘したが、
「そうだった?」
「わかんない」
ミケラとサクラーノはお互いに顔を見合わせ、二人の頭の上に?マークが浮かぶ。
二人とも本気で覚えがないようだ。
初めての旅行、初めての出し物の準備と出演で浮かれてしまい、気がついていなかった模様。
「人間にだって耳はあるんだぞ」
キマシの言葉に、
「どこに?」
「耳、どこ?」
目をキラキラさせて聞くミケラとサクラーノ。
「教えて欲しい?」
「教えて、教えて」
「教えてよ」
「そこまで言うなら仕方ない、このキマシ先生が教えて進ぜよう」
有頂天モードは継続中のようだ。
「わたしの事はキマシ先生と呼ぶんだぞ」
「はい、キマシ先生」
ミケラとサクラーノはハモって答えた。
「ならばしかと見よ、人間の耳はここだ!」
自分の耳を指さす。
「な~~んだ」
「そこなんだ」
あからさまにがっかりする二人。
慌てたキマシは、
「ちょっと待ってね・・・そ、そうだ、触ってみる?わたしの耳、触っていいよ」
「いいの?」
「おおっ!」
キマシの提案にあっさりと食い付いてくる二人。
「触って、触って」
二人の顔の高さまで顔を下げると、耳を二人に向ける。
二人は手を伸ばしてキマシの耳を触る。
「プニプニしてる」
「うん、わたし達の耳と違う」
二人は初めての感触にしばらくキマシの耳を触り続けた。
ケットシーの耳は猫と同じくかなり薄い、対して人間の耳は肉厚で弾力があるのだ。
初めての感触に驚きの表情でその感触を楽しむ二人。
「わ、わたしも二人の耳に触っていいかな?」
と聞かれて、ミケラとサクラーノは困ったように顔を見合わせた。
ケットシーの耳は猫の耳と同じく、虫が入り難くするために耳毛が生えているのだが、その耳毛に触られるともの凄くくすぐったいからだ。
「ほらほら、二人が困ってるじゃない。嫌がる事はしちゃダメだよ」
ギリが止めに入ってくれる。
「そうだぞ、またお父さんに怒られるぞ」
レッドベルにお父さんと呼ばれて、チャトーラはやれやれまたかよと溜め息をつく。
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