外伝1「さすらいの勇者1ー146」
「それで、魔獣の方はどうなりました?」
無力化した魔獣の扱いが気になって聞いてみた。
「あいつらか、大人しくて言う事も聞くから元いた場所へ返すのは順調だ。今日中には終わるんじゃないか」
それを聞いて武茶士はほっとする。
操られていた魔獣達を元いた場所に戻す、その願いで魔主を倒したのだから。
「俺の戦いも、無駄じゃなかったんですね」
安堵の溜め息をつくと、
「お疲れ様」
「ご苦労じゃった」
ヒットとドンが拳を突き出してくる。
武茶士はその拳に、自分の拳を軽く当てた。
それから武茶士は、魔獣に壊された砦の補修作業を手伝って過ごす。
勇者のタレントのお陰で、力仕事に重宝されたのだ。
「勇者様、その石材をこっちに持ってきて・・・はいはい、オーケー」
「勇者様、その丸太をあっちの作業場に持っていって」
いいように使われている気もしないではないが、こうやって作業しているのは楽しかったのだ。
ギリやキマシの手続きに少し時間がかかり、手続きが終わってから一緒に王都に向かう事になり、その間、手持ちぶたさになってしまったので、武茶士としてはこうして使って貰える方が嬉しかった。
「武茶士、頑張ってるな」
レッドベルが様子を見に来た。
「レッドベルか、お前も王都に一緒に行くんだったよな?」
「うん、虎次郎師匠に稽古を付けて貰えるようにお父様を説得したんだ」
レッドベルを溺愛しているクロウベルがよく承知したモノだと思ったが、
「ジークおじさんが、お父様に可愛い子には旅をさせろっと言って、お父様を拳で説得してくれたんだぞ」
「こ、拳で!」
拳という言葉に引っかかったが、あの司令ならありかと納得する。
「タマーリンの所にお世話になるんだって?」
「うん、今から楽しみだ」
「そうか」
武茶士もタマーリンの家には何度か行った事があるが、今は老メイドとその孫娘との三人暮らしなので部屋は余っている。
タマーリンが貴族の娘というのも驚きだが、暮らしている家も広いが、貴族としてはちょっとぼろいかなと言う気もしなくはない。
詳しく聞いたわけではないが、老メイドの孫娘の話では、昔貴族が作った離れ家だったらしいが、その貴族が没落したのでタマーリンが引き取ったという事だ。
三人で住むには広すぎる家なので、キマシ達が一緒に住むには丁度いいかもしれないと無茶士は思った。
「それじゃあ、わたしはまだ挨拶が残っているからこれで行くぞ」
レッドベルは片手を上げて去って行った。
ギリやキマシのような下っ端ならともかく、レッドベルは一部隊を率いていたのでそれなりに大変なようだ。
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