外伝1「さすらいの勇者1ー145」
「おや武茶士、目が覚めましたか?」
ヒットとが声をかけてきた。
「ここは?」
首を回して見回すと見覚えのある、隊舎の自分のベッドだった。
「気を失って倒れて、ここまで運ばれてきたんですよ」
ヒットの説明に実感が無く、なんだか人事のように聞こえた。
「そうだ、女神様に貰った・・・」
武茶士は何かを探すように身体を動かし、自分の枕の下に紙の束があるのを見つけた。
「コーラのレシピ・・・やっぱりあれは夢じゃ無かったんだ」
その紙の束を抱えて、無茶士は心の中でネビュラ・ナナに深く感謝する。
武茶士は魔主との戦いの後、丸一日寝ていたそうだ。
「ご心配おかけしました」
食堂で隊のみんなに頭を下げる。
「おう、もう大丈夫か?」
チェン隊長が豪快に笑いながら肩を叩いてくる。
「はい、もう全然大丈夫です」
実際、倒れたのすら覚えていないし、身体の調子も問題なかった。
「ねえ、武茶士。あの光の玉もう出さないの?」
キマシがワクワクした目で見上げてくる。
「もう出せ無いと思う。借り物の力だし、その力も含めて全ての力を振り絞って放出したから」
武茶士の力ではないので、もう一度出せと言われてももう無理なのだ。
「そうなんだ」
キマシはがっくりと肩を落とす。
「タマーリンさんの所に行ったら、街の中で会えるかもしれないからがっかりしない」
ギリが励ます。
「タマーリン?街で会える?何の話だ?」
話が見えず、首を捻る武茶士。
「光の玉の中にいた女の子、あの子にケットシーの街に行けば会えるって聞いたから」
それで合点がいった。
「ミケラ姫のことか?確かにお城からよく抜け出して、街の中歩いてるな」
「知ってるの?」
「俺、この世界に来て最初に会ったのがミケラ姫達だから、それに虎次郎はミケラ姫の護衛だし」
「え~~っ」
虎次郎の方を見るキマシとギリ。
「ふっ」
虎次郎は自慢するように胸を張る。
「本当に辞めるんだな、お前ら」
チェンが溜め息をつく。
「ゴメンね隊長」
キマシが謝る。
「いいって、キマシは本当の事言うと、ここに向いてないなと思ってたから」
チェンの隣でモリノクが頷く。
「ギリの、目と判断の良さは惜しいとは思ってるけどな」
「ゴメン、本当にゴメン隊長」
ギリはチェンに手を合わせる。
「あたし、キマシの保護者だし、一人で放っておくと何するか判らないからさ」
「わたしはギリの子供か!」
キマシがギリにチョップを仕掛けるが、ギリはあっさりとそれを避ける。
「それにタマーリンさんの所で働いた方が、ここよりお給料いいから」
正式に国から給料が払われているので一般人よりかは高いが、まだ下っ端なのでそれほど高額というわけでもないのだ。
キマシも貴重な魔術師なのでギリより給料は高いが、魔術師の中では最低ランクしか貰っていない。
「二人とも実家に仕送りしてるからな、無理には引き留められんわな。それは指令も理解しているから、三人の除隊を認めたのだろう」
「三人?ギリやキマシの他に?」
武茶士の目の前にはギリとキマシの二人しかいない。
「ベルも一緒に行くんだよ」
「虎次郎に稽古を付けて貰うんだそうだ。と言っても、暮らすのはあたし達と同じでタマーリンさんの家だけどさ」
虎次郎は城の中に小さいが部屋を貰って、そこで暮らしている。
流石にその部屋に、レッドベルを連れて行くわけにはいかないのだ。
(Copyright2024-© 入沙界南兎)




