外伝1「さすらいの勇者1ー140」
頭上から氷の塊が降ってくるのは魔主も気がつく。
上を見上げ、どうやら自分に向かって落ちてくる事も、それに当たれば自分もただでは済まない事も本能的に感じ取る。
生命の危機に本能が反応し、右の前足を振り上げた。
その動きに合わせて黒いもやがムチのようにしなり、頭上の氷の塊を激しく打ち付けたのだ。
ガキィ~~~~~ン
激しい衝突音の後、氷の塊の落下速度がかなり落ちた。
続けて左の前足を振り、もやのムチが氷の塊を叩く。
氷の塊の落下速度が更に落ちる。
再び右前足を振り、氷の塊にヒビが入り、左前足が振られた時には完全に砕けて小さな塊となって辺り一面に降り注ぐ。
「なんですの~~っ!」
これには流石のタマーリンも目が点になる。
グォォォォォォ
降り注ぐ氷の中で勝利の雄叫びの如く魔主が吠えた。
近くにいた虎次郎達はもとより、距離を取っていたタマーリンも堪らず耳を両手で塞ぐ。
だが咆哮の終わった後、虎次郎は激おこ状態に。
武茶士の頭上の光の玉の中のミケラが、魔主の咆哮に怯え頭を抑えて震えていたからだ。
ミケララブのタマーリンすら光の玉の中のミケラは別物と判っていて気にもとめていなかったが、虎次郎にとってはミケラはミケラだったのだ。
たとえ映像だけの存在でも怯えさせた奴は許せないのだ。
虎次郎は心の底からミケラ第一主義の危ない人なのだ。
「姫を虐めた、許さぬ」
虎次郎が奔った。
散らばった氷の塊を避けるため、レッドベルの稲妻斬のように細かく左右に方向を変えながら。
そこへ、魔主の黒いもやのムチが虎次郎目掛けて振り下ろされた。
「ふんっ」
振り下ろされた太いムチを、虎次郎はあっさりと切り払ってしまう。
「流石師匠」
レッドベルが手を叩いて賞賛する。
そう、それはレッドベルの剣では未だ到達し得ない領域の妙技だったから。
虎次郎は足を止める事無く、魔主まで迫ると立て続けに魔主の後ろ足を両方とも切ってしまう。
流石に再生が間に合わず、そのままバランスを崩して尻餅をつく魔主。
すかさず虎次郎は魔主の胴体を何度も切り裂く。
しかし、胴体を切り裂いている間に切られた後ろ足が再生し、魔主は立ち上がる。
立ち上がった魔主の切られた箇所が、見る間に再生していく。
「何ですの、あの黒いもやは一体何で出来ているのです?」
タマーリンはモノ試しと魔力感知を使ってみた。
「あら、魔力であって魔力で無いような・・・不思議な力ですわね」
魔力感知で感知する魔力とは違う、つかみ所の無い存在である事は判った。
そして総量もかろうじて測れる。
虎次郎が果敢に攻撃している間に、タマーリンはある事に気がついた。
「切られて再生する都度に、減っていますわね」
僅かずつではあるが、黒いもやの量が減っていくのだ。
試しと、火球を作り出して魔主の顔目掛けて放つ。
火球は魔主に到達する前に黒いもやに飲み込まれて消えてしまったが、黒いもやの総量はほんの僅かに減った。
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