外伝1「さすらいの勇者1ー139」
「わたしが足止めするから、師匠と武茶士に後は任せた」
レッドベルが、勢いよく飛び出した。
稲妻斬を使い、魔主の足をひたすら切りまくる。
レッドベルの力では、魔主の足の皮の表面に傷を付ける程度にしかならないが、何度も繰り返されればかなりうざったい。
魔主はレッドベルを、前足や後ろ足を使って追い払おうとしたが、稲妻斬で動き回るレッドベルに当てる事は出来ない。
魔主の意識がレッドベルに向かっている間に、武茶士は結界に力を溜めていく。
「うぐぐぐぅぅぅぅ」
自分の集中力が続く限界まで結界に力を溜め放つ。
武茶士の放った力の篭もった拳は見事魔主の胸に命中し、魔主の身体がのけぞる。
その瞬間、虎次郎が走り、見事魔主の後ろ足一本を切り払う。
片足を失い、バランスを崩しよろける魔主。
但し、よろけたのはほんの一瞬だけ、虎次郎に切られた足はよろけたほんの僅かな間に復活し倒れる前に踏ん張ったのだ。
「なんていう回復力だ」
驚く武茶士。
自分の頭の上に輝く光の玉による回復力も大概だと思うが、それはそれ、これはこれなんだろう。
「お~ほほほほほほ」
唐突にタマーリンの高笑いが響き渡った。
何事かとタマーリンの方を見る。
「あなた達、お逃げなさい」
その言葉と共に武茶士達は何かの影が頭上を覆ったのだ。
見上げると、直径五十メートルくらいはありそうな氷の塊が、空から降ってくるではないか。
「うげぇぇぇ」
慌てて武茶士達は氷の塊の落下点から離れる。
「ふう、氷魔法は苦手なので詠唱に時間がかかってしまいましたわ」
やりきったと、満足げな笑みを浮かべてタマーリンは額を拭う。
タマーリンの得意とするのは火魔法、次に風魔法である。
氷魔法も土魔法も取り敢えず使える程度だ。
と言っても、それはタマーリン基準から見たらであって、その威力は通常の魔法使いを遙かに凌駕していた。
ぶっちゃけ、並の魔法使いに直径五十メートルの氷の塊なんて作れない。
それを不得意だと言いながら、作ってしまうタマーリンが異常なのである。
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