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外伝1「さすらいの勇者1ー137」

「ここで諦めたら、申し分けなさすぎる」

 その言葉に虎次郎すら頷く。

「いくぞ!」

 武茶士の合図で最初に動いたのはタマーリンだった。

「風のウィンドストーム

 風の渦が発生して、光の玉の光で動かなくなった魔獣達を次々と吹き飛ばしていく。

 あと少しで魔主に届くという所で、魔主の身体を覆う闇のもやが動き風の渦に触れた瞬間、風の渦が霧散してしまう。

「何なのです、今のは!」

 驚くタマーリン。

 それは武茶士達も同じだった。

 動かなくなった魔獣達に必要以上に被害が出ないように、タマーリンが力を加減しているのは判っていた。

 もし、本気でタマーリンが魔法を放てば魔獣など跡形も無く消え失せるだろう。

 敵対しているならば、タマーリンは躊躇無くその力を振っただろうが、光の玉の光を浴びせれば大人しくなると判った時点で敵という認識は無くなったのだ。

 だから命を奪う程の威力のある魔法は使っていない。

 だからといってタマーリンの魔法が、こうもあっさりと消されるのはあり得ない話しなのだ。





「あのもや、かなりやばいな」

 焦る無茶士の前に虎次郎が出る。

「俺がやる」

 虎次郎は構えた。

 幸い、タマーリンによって魔主との間にいた魔獣は殆ど吹き飛ばされているので、遮るのは魔主の周りにいる僅かの魔獣だけだ。

「ふん」

 虎次郎が白炎を振り、炎が走る。

 その炎は地を焼き、空気を焦がし魔主に迫る。

 しかし、その炎も魔主に届く前に黒いもやによってかき消されてしまう。

「本当にあのもやはやっかいですわね」

 空中に浮いていたタマーリンが武茶士の横に着陸する。




「そうですね」

 タマーリンの言葉に頷きながら、武茶士は考える。

「取り敢えず、周りにいる魔獣を排除してしまいましょう。あいつらがいると戦いにくいですから」

「そうですわね、その役目はわたくしが引き受けますわ」

 タマーリンが再び宙に飛び上がると、魔獣の方に向かって再び風の渦を放つ。

 武茶士もそれに合わせて飛ばされた魔獣達の方へと走った。

「悪いな、少し辛抱してくれ」

 武茶士が近寄る事によって、飛ばされ傷ついた魔獣達の傷が瞬時に癒やされていく。

 タマーリンの魔法で魔主の周りの魔獣は取り除かれ、魔主と僅かな魔獣、それと武茶士達だけになる。

「強力な魔法はあなた達を巻き込んでしまいますから、わたくしは支援に回りますわ」

 そう宣言してタマーリンは武茶士達の後方へ移動する。

 タマーリンが本気で魔法を使えば、あの黒いもやすら防げはしないだろうと無茶士にも判っていたが、そうすればどこまで被害が及ぶか判らない。

 タマーリンの本気の魔法のやばさは、この谷を溶岩の海に変えた時に見せて貰っている。

 あんなモノ使われたら、自分達も巻き込まれるのは間違いない。

 魔獣を無力化する手段がある以上、出来る限り魔獣の命も助けたかったのだ。

「俺たちでダメだったら、始末は頼む」

 もしもの時は、全てタマーリンに委ねる事を告げ、武茶士達は構え直す。


                      (Copyright2024-© 入沙界南兎(いさかなんと))

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