外伝1「さすらいの勇者1ー135」
「あなた達、何をやっていますの?」
頭の上から声が聞こえたので、武茶士達が声の方を見上げる。
空中にタマーリンが浮いているのが見えた。
「タマーリン?」
サビエラが無事、魔獣に顔を舐め回されて悲鳴を上げている状態から助け出されるのを見届けて、武茶士達を追って来たのだ。
「何をしているって、魔獣が邪魔で前に進めなくなってるんだ、見れば判るだろ」
武茶士が大きな声で返事をする。
「あなた達、バカですの?」
突然の物言いにむっとしてタマーリンを睨む武茶士。
「魔獣が前を塞いでいるんだぞ、どうやって進めって言うんだ」
「だからバカと言ってますのよ」
タマーリンは余裕で微笑む。
「魔獣が邪魔をしているなら、その魔獣を吹き飛ばして進めば宜しいのよ。今の武茶士になら出来るはずですわ」
武茶士はサクラーノの力も借りている、サクラーノの力を使えば前を塞ぐ魔獣を吹き飛ばして進むのは可能だろう。
「吹き飛ばすって・・・こいつらを?」
敵対する意思をなくし、大人しくなった魔獣を吹き飛ばすのは出来ないと横に首を振る武茶士。
タマーリンはやれやれと溜め息をつくと、
「判りましたわ、あなたが出来ないのならわたくしがやりますわ」
タマーリンは武茶士の頭より少し高い位置まで降りてくると、風の魔法で武茶士達を足止めしている魔獣を吹き飛ばした。
「な、何をするんだ!」
武茶士は怒鳴ったが、
「あなた方が先に進んで元凶を倒さない限り、魔獣はいつまでも元にいた場所に戻れませんのよ」
言われて武茶士達はっと気がつく。
魔獣達をいつまでもここに置いておくわけにはいかない。
谷の先にある洞窟の中から出てくるというならば、その洞窟の中に帰さければならないのだ。
しかし、狂気に満ちた目をした魔獣はまだやって来ている。
その元を倒さなければ魔獣達を送り帰せない。
一見無茶をしたように見えるが、タマーリンなりの優しさだったのだ。
「判った、俺もやる」
覚悟を決めると、頭の中に何をすれば良いかが突然閃く。
武茶士の魂はミケラとサクラーノの力を知っているのだ。
武茶士はタマーリンの作り出した道を全力で走って魔獣の群れに突っ込み、多くの魔獣を吹き飛ばす。
吹き飛ばされた魔獣は崖や仲間の魔獣に当たり怪我をするが、光の玉の力によって瞬時に傷が治って立ち上がる。
それを横目で見ながら武茶士は、
「ごめん」
と心の中で謝る。
タマーリンが三人を浮遊させて運べば解決する話なのだが、それをタマーリンはそれを良しとしなかった。
「力あるモノがその力を使うなら覚悟をお持ちなさい、優しさだけで人は救えないのですよ勇者様」
それは武茶士へのタマーリンなりの優しさでもあり、警告でもあった。
タマーリン自身が力がある故に、幾つもの苦汁を舐めその重さを知っていた故に。
タマーリンと無茶士で入れ替わりで魔獣達を吹き飛ばし、一行は谷の奥へ奥へと走り抜けていく。
やがて先の方に黒い塊が見えてきた。
「あれが魔主か」
気を引き締める武茶士達。
後書きです
今後の予定ですが、予定通りいけば147話くらいで終ります。
ネタ思いつちゃったでもなんとか150話以内には納めるよう頑張ります。
それと10月の最終曜日でこの話の三年目を迎えるので、それを記念して短編を発表します。
タイトルは「変身せよ、ミサケーノ」です。
「きた~、ついに私の時代がきた~」
「それは甘いわよミサケーノ」
「その超えはネヴュラ・ナナ」
「そう、超絶美人女神ネヴュラ・ナナよ」
「自分で言っていて恥ずかしくない?」
「う、うるさいわね・・・兎に角、あなたに変身能力はないのよミサケーノ」
「そうだった~~~」
どうなるかはお楽しみに。
ではまた来週(@^^)/~~~
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