転生したら最強勇者になったが、住民の方が優秀だった件 その17
ミケラが武茶志の側まで走ってきて止まる。
「お姫様、何ですか?」
武茶志は身をかがめる。
「武茶志、二回も走って偉い」
キラキラする目で武茶志を見て、背を精一杯伸ばして武茶志の頭を撫でた。
「ありがとうございます、本物のお姫様に頭撫でて貰えるなんて俺感激です」
嬉しそうに武茶志が笑うのを見て、ミケラもニッコリと笑う。
その後、ミケラはチャトーミのもとに帰る後ろ姿を見送りながら武茶志はさっきまであった疲れが軽くなった気がした。
「あの子の笑顔って本当に癒やし効果があるのかも、と言うかあの笑顔を見ているとこっちまで嬉しくなるからその御陰かな」
武茶志はトコトコと走るミケラの後ろ姿に感謝と親愛の笑顔を送る。
「休憩っていっても何しようか?」
チャトーミはパラライズから復活したチャトーラに聞く。
チャトーラは草むらに寝転がって、
「寝転がって、たまには空をぼ~っと眺めてるのもいいじゃないねぇか。街に戻れば手紙屋でゆっくりと空眺めてる暇もねぇし」
チャトーラとチャトーミは自慢の足を生かして、村から村へ手紙を運ぶ手紙屋をやっているのだった。
郵便局も宅配便も無い世界では重宝され繁盛しているのだ。
チャトーラとチャトーミ二人しか手紙を配達出来ない現状では、繁盛すれば当然二人が忙しくなるのであった。
「そうだね」
チャトーミもチャトーラの横に寝転がる。
「私も」
ミケラもやって来てチャトーミの横に寝転がった。
「あっ、あの雲、長堅パンに似てる」
チャトーミが空に浮く細長い形の雲を指差した。
長堅パンとはこちらの世界のフランスパンに似たパンの事である。
「どこ?どこ?」
ミケラが見つけられずに聞いてくる。
「あそこ、あそこ」
チャトーミがミケラの手を取って一緒に指差す。
「本当だ、長堅パンそっくり」
その後、ミケラとチャトーミはクスクスと笑い出す。
「何が可笑しいんだよ、まったく女ってのはよく判らねぇ」
チャトーラはぷいとチャトーミ達に背中を向ける。
「兄ちゃん、兄ちゃんも見てよ長堅パンだよ、長堅パン」
チャトーミが何度もチャトーラの背中を揺する。
「しょうがねぇな、見りゃいいんだろ、見りゃ」
チャトーラが諦めて空を見上げる。
「兄ちゃんあっちだよ、ほら、長堅パンに見えるでしょ」
チャトーミの指差す方をチャトーラは見た。
「ホントだな、長堅パンに見えらぁ・・・子供の頃、お袋が長堅パンに卵を焼いたのをのせたのを食べさせてくれたな・・・あっ、やべぇ!」
チャトーラが慌てて口を押さえた、チャトーミの前で死んだ両親の話は禁句だったのだ。
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