外伝1「さすらいの勇者1ー134」
「俺たち三人で奥の方に行ってみようと思います」
チェンにこれからの事を報告する武茶士。
ほうれんそうは仕事の基本が染みついているのだ。
「そうか、気をつけて行けよ」
チェンは背中を押してくれた。
「はい、ありがとうございます」
反対されるかと思っていたのが、反対されずにほっとする。
「じゃあ、行ってきます」
武茶士、虎次郎、レッドベルの三人は谷の奥を目指して走って行った。
「さてと俺たちは・・・」
三人は見送ってからチェンは周りを見回す。
「あいつらをひとまとめにしておくか」
ぼけっと立ち尽くしている魔獣を一カ所にまとめる作業を、その場にいる者達と始める事にした。
戦う気力も抗う気力も無くした魔獣を集めるのは意外に簡単で、目に付く限りの魔獣を一カ所に集める事が出来た。
「こいつら、どうしようか?」
暴れたり抵抗するならいっその事とも言えるが、無抵抗で大人しくなってしまった魔獣を手にかけるのは流石に心が痛む。
集めた魔獣の一団を見てチェン達は途方にくれてしまったのだった。
武茶士達の方も無抵抗になった魔獣に手を焼いていた。
光る玉から出る光によって魔獣の凶暴性は失われるのだが、その場で動かなくなってしまうので通り抜けるのに邪魔なのだ。
無抵抗のモノに乱暴な事をするわけにはいかず、結局動かなくなった魔獣を避けてす進む事になり、なかなか思うように進めなくなってしまう。
「困ったなこれ」
武茶士は頭を抱えてしまっていた。
進みたくても思うように進めず、と言って邪魔な魔獣に手出しするわけにもいかず、ひたすら魔獣を避けて進むしかないのだ。
それはレッドベルも虎次郎も同じだった。
虎次郎は全身に炎を纏っているので近づくと魔獣の方が道を空けてくれるが、緩慢とした動きなので武茶士より少しましという程度の差しか無かった。
レッドベルは稲妻斬を使って器用に魔獣を避けて進んでいたが、時々避けそこなって魔獣を吹き飛ばしてしまい、その都度、足を止めて魔獣を助け起こしていたので余計に遅くなってしまっている。
それもいつまでも続かなかった。
後から後から魔獣達が押し寄せてきて、光の玉の力で戦意を喪失してその場に立ち止まるので、動かない魔獣が溜まり続けてついに前に進めなくなってしまったのだ。
「これ以上、進めないぞ」
「どうしよう?」
「う~む」
魔獣の壁の前で立ち尽くす三人。
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