外伝1「さすらいの勇者1ー130」
「武茶士、お前凄いな」
レッドベルが直ぐ下まで来て見上げて声をかけてくる。
「タマーリン、降ろしてくれ」
「はいはい」
武茶士の身体がゆっくりと降りて行き、レッドベルの前に降り立つ。
「レッドベルの稲妻斬、使わせて貰った」
「そうか、役に立ったか?」
レッドベルが心配そうに聞いてくる。
「お陰でサビエラさんを助けられた」
それを聞いた瞬間、満面の笑顔になって、
「そうか、そうか」
武茶士の肩をバンバン叩く。
「サビエラ姉さんを助けるのに役に立ったか」
サビエラを助けるのに、自分の技が役に立ったのが余程嬉しかったようだ。
「それで、レッドベルはこれからどうするんだ」
「戻る、まだ部下達が戦っているからな」
即答だった。
部下を置いてサビエラを助けに来たのだから、そのサビエラが助かったの以上、もうここに居る意味はなかったのだ。
「俺も戻るか、あれがあれば魔獣は大人しくなるみたいだからな」
上を見上げる。
空中から大人しくなった魔獣を見て、この光の玉の凄さを改めて感じたのだった。
光の玉から出る光に触れると魔獣から狂気に満ちた攻撃性が無くなってしまうのだ。
魔獣が大人しくなるなら、人間側も敢えて魔獣を攻撃する必要も無い。
人間側の方からも攻撃性を奪っているのを、この時点では武茶士は知らなかったのだが。
「じゃ、俺は先に行っているから」
武茶士が走り始めた。
その速さはまさに強弓から放たれた矢の如し。
その後ろ姿を空中から見送るタマーリンは、
「あれはサクラーノの力ですわね。ミサケーノは光の速さで走ったと逸話がありますが、逸話は話が盛られるモノですから」
小さく微笑む。
レッドベルも武茶士の後を追っていった後、タマーリンは地上に降りる。
食堂の方に戻ると、サビエラが魔獣達の取り囲まれていた。
「タマーリン様、助けて下さい」
サビエラはタマーリンの姿を見つけると助けを求めた。
「あらあら」
タマーリンはつい笑ってしまった。
魔獣達はサビエラを取り囲んで、入れ替わり立ち替わりサビエラの顔を舐めていたのだ。
「笑っていないで、助けた下さい!」
サビエラは悲鳴に近い声を上げた。
その後、避難所から出てきた人たちに救われるが、それまで延々と顔を舐め続けられる羽目になったという。
その間、タマーリンはちぎれるのではと思う程に尻尾を振った魔獣達に顔を舐め回され、サビエラが助けを求めている様子をコロコロ笑いながら眺めていたのだった。
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