外伝1「さすらいの勇者1ー128」
「ジークおじさん、あれ」
レッドベルルが光の玉に気がつき、指さす。
「な、なんだあの光は?」
突如出現した光の玉に驚くジーク。
「なんなんでしょう?」
クロウベルも光の玉を見上げる。
変化はそれだけではなかった。
牙を剥き、暴れ回っている残り少ない魔獣が動きを止め戦う意思を示さなくなり、傷つき倒れた者達の傷が次々と治り、あちこちで、
「俺の腕が元に戻った」
「目が、目が、見える・・・奇跡だ」
「足が、俺の足が繋がった」
と兵士達の歓声が聞こえてくる。
それ以上に驚きなのが、
「この野郎死ねや」
と魔獣に攻撃を仕掛けた兵士の耳元で、
「みんな仲良くしないとメッなの」
小さい女の子の声が聞こえ、その戦士の戦意を失わせてしまう事だった。
「なんだ、何が起こっている?それにあの光の中にいる女の子はいったい誰だ?」
光の中にケットシーの女の子の顔を見て、疑問を口にするジーク。
その答えは直ぐに判った。
「あの光の中にいるのはミケラ様じゃないか?」
「本当だ、ミケラ様だ」
「ミケラ様が俺たちを助けてくれたんだ」
ケットシー達が次々とミケラの名を口にし、手を合わせる。
「ミケラ?ミケラってケットシー王国の末姫だったかな?」
「ええ、しばらく乳母に預けられていたのが最近、王城に戻ったと聞きますね」
「なんで、そんな子があそこにいるんだ?」
「さあ、判りません」
肩をすぼめるクロウベル。
「あれはミケラ様・・・まずいですわね」
唇を噛むタマーリン。
ミケラの力が伝説の聖女ミサケーノに由来すると気がついた、だがそれは他人には知られてはならない事だ。
もし知られてしまえば間違いなく大騒ぎになる。
ミケラの平穏無事な生活を願うタマーリンにとって、それはとてつもなく不本意な事なのだ。
「どう致しましょう?」
と考えるタマーリンの視線の先に無茶士の姿があった。
「勇者様にここは働いて貰いましょう」
ほくそ笑むと、食堂を後にして空中に飛ぶ。
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