外伝1「さすらいの勇者1ー121」
ミケラとサクラーノは、薄い霧の向こう側から、走り去る武茶士を見送る。
ミケラの姿が光に包まれ、膨れ上がり別の形となる。
そこには神々しいまでの光に包まれた一柱の女神の姿が。
サクラーノも黄金色の光に包まれ、光が消えると猫神に変わっていた。
猫神が女神の前に恭しく傅く。
女神の名をネビュラ・ナナと言い、世界の秩序を司る神であった。
世界を支える神の内の一柱であり、ミサケーノに聖女の力を与えた神である。
「ネビュラ・ナナ様、この度はご協力頂きありがとうございます」
深々と頭を下げる。
「いいのよ、頭を上げなさい。わたしはあの子達が泣くのを見たくなかっただけですから」
「あの子達と申しますと、我らが姿を借りた・・・」
ネビュラ・ナナは深く頷く。
「あの勇者の子・・・武茶士と言ったかしら?ミケラと関わりがあるようですから、死んだと知ったら悲しむでしょう」
「子供が泣くのを見たくないとは、流石ネビュラ・ナナ様。なんとお優しい」
ネビュラ・ナナの優しさに猫神は感動する。
「ミサケーノの封印は魂を二つに分けても完璧ではないのです。もし、魔獣が砦を抜けて街に入り込み、あの子達が出くわしてしまえばミサケーノの力が目覚めるでしょう・・・」
そこでネビュラ・ナナは言葉を切ると、
「そうなったら、後でミサケーノにグチグチと文句を言われるのよ。あの子、わたしの事をまるで敬ってないから、神様だなんて思ってないから・・・手加減無しで怒るから」
涙目になるネビュラ・ナナ様だった。
「それは貴女がミサケーノに色々やらかしているかでは・・・」
と猫神は言いかけて、言葉にする寸前で押し止める。
「だから、あの勇者君には頑張って貰わないとね」
「は、はぁ」
鼻息の荒いネビュラ・ナナにどう答えていいか困り、曖昧な返事で誤魔化す猫神。
「しかし、魔獣の数が尋常ではありません。武茶士だけで、大丈夫でしょうか?」
魔獣の数が尋常ではないのはネビュラ・ナナも判っていた。
「心配には及びません、彼がやっと本気になってくれたようですから」
霧のに写しだされる現世の一角にネビュラ・ナナは視線を送る。
女神の視線の先に虎次郎の姿があった。
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