外伝1「さすらいの勇者1ー116」
「やばいぞ、あいつは!」
ジークが画面を見て叫ぶ。
画面には大猿が砦に向かってくる姿が映し出されていた。
砦の門は頑丈に作られているので、オオカミ型がいくら来てもびくともしない。
オオカミ型が束になっても、砦の門を壊す事ができないのだ。
それに全ての門は閉じてあるので、オオカミ型が砦の中に入ってくる事は無い。
しかし、あの大猿はダメだ。
大猿の怪力で何度も殴られれば、いくら頑丈な門でも破壊されてしまう。
隙間が出来れば、その隙間にオオカミ型が潜り込んできて暴れまくる。
今までにも力の強い猛牛型や熊型が門を破壊し、そこからオオカミ型が砦に侵入して被害が出してきた。
「剣を持ってこい、俺が出る」
ジークが叫ぶ。
「指令の剣を持ってこい!」
「はい!」
「わたしの剣も頼む」
クロウベルも叫ぶ。
「副司令の剣も持ってくるのだ」
「はい!」
臨時司令部の中が一気に慌ただしくなる。
「見張り台の上の弓兵にオオカミ共を攻撃するように合図を出せ、それと弓兵と槍兵を門の前に展開・・・数はこれだけだ」
ジークは片手を広げる。
「はい、見張り台の弓兵に合図送ります。弓兵と槍兵を門の前に展開させます」
副官の返事に満足そうに頷くと、
「クロウベル、俺たちは先に行っておこう・・・剣は門まで届けてくれ」
「仕方ないですね」
ジークとクロウベルが臨時司令室から門まで全力で走った。
しかし、ジークが門にたどり着く前に大猿の門への攻撃が始まってしまった。
大猿が巨体を勢いよく門に叩き付ける。
ドォォォン
一発目、門は耐えきった。
ドォォォン
二発目、ミシッと言う音がどこかで聞こえた。
ドォォォン
三発目、どこかで何かが壊れる音が聞こえた。
「やばいぞ、奴を止めろ!」
オオカミを攻撃していた見張り台の兵士が大猿目掛けて矢を射かけ始めた。
しかし、動きの速いオオカミ対策為の扱い易さ優先の短弓では、大猿の厚い皮膚の前には殆ど効果は無かった。
ドォォォン
四発目の体当たりで、門はついにひしゃげてしまったのだ。
「しまった、間に合わなかったか」
「ならば、あのやっかいな大猿を先に討つだけの事でしょう」
クロウベルが事も無げに言う。
「そうだな」
途中で受け取った剣をジークとクロウベルは抜く。
ジークの剣は一振りで牛をも一撃で屠れそうな大剣。
その大剣を軽々と片手で振り回すジーク。
クロウベルの剣はツーハンドソードと呼ばれる、両手で扱う長剣だ。
「ならばいつものようにわたしが前で、後ろは頼みましたよ」
「おうよ」
クロウベルが剣を構えて大猿の前に進み出る。
「指導して差し上げましょう、どこからでもかかっておいでなさい」
大猿の巨体を恐れた様子も無く、悠然と構える。
両手を振り回して大猿はクロウベルに襲いかかった。
クロウベルはその尽くを剣で捌ききる。
「力は強いですが、力に頼り過ぎですね」
やれやれと溜め息をつく。
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