外伝1「さすらいの勇者1ー114」
レッドベル達が作ってくれた広場へと無茶士は大猿を誘い込む事に成功した。
「よし、ここなら本気を出せる」
武茶士は地上へと着陸する。
「武茶士、わたしにも戦わせろ」
大猿を見上げながらワクワクして顔で叫ぶレッドベル。
「いや、レッドベルは向こうを頼む。オオカミ型がもう少しで抜けそうだった」
広間と反対側ではオオカミ型が防御陣の頭上を次々と越え、第一陣と第二陣はその応戦で手一杯になっているのが見えた。
その上、大猿にかき乱され、第四陣と第五陣が浮き足立っているのも見て取れた。
このままではオオカミ型に突破されるのも時間の問題だろう。
「そうか、じゃあ行ってくる」
残念そうな顔をしてから、それでも自分の役目の方を優先して走って行くレッドベル。
「本当に素直でいい子だな」
レッドベルの素直さに感心する武茶士に、大猿が攻撃してくる。
「それは予想済み」
結界に力を注ぎ受ける。
「ぐわっ」
虎次郎の本気の一撃並みの衝撃に思わずのけぞる武茶士。
「これは、気を抜いたらまずいかも」
気合いを入れ直す。
大猿の方も殴ったのに相手が吹き飛びもせず、逆に自分の拳がはじき返された事に一瞬戸惑ったが、それもほんの一瞬だけで、再び構わずに殴りかかって来る。
動き自体は単調なので、避けるのは問題ないのだが、避けられた後の切り返しが速くて攻撃に転じる隙が無い。
「ただ当てるだけならいいんだけど、効果なんて殆ど無いし」
拳を飛ばすだけで相手の厚い皮膚に拒まれ、ダメージなど皆無に等しい。
ダメージをしっかり通すためには、結界に力を注ぐ必要があるのだがその隙が無い。
「滅茶苦茶に腕を振り回してるだけなのに」
ただ腕を振りましているように見えるが、野生の勘とでも呼べばいいのか、武茶士が仕掛けようとすると思わぬ方向から攻撃してきて力を注ぐ事が出来ないでいた。
「やりにくいな、虎次郎やヒットなら動きの予想を付けられるのに。野生の勘、恐るべし」
攻防を繰り返す内に、大猿の動きを見きれるようになってきた。
他の事を考える余裕が生まれる。
「ヒットが確か、
「人間の急所はほぼ身体の真ん中の線上にあります。
魔獣も同じなので、攻撃が当てられるなら身体の真ん中の線上を狙いましょう。」
と言っていたな。・・・狙ってみるか、その前に動きを止めないと」
武茶士は次の大猿の攻撃を空中に飛んで避けると、空中から大猿の目を狙って拳を連打で飛ばす。
何発かが目に当たり、堪らず、大猿は顔を押さえてうずくまる。
うずくまって急所の一つ、後頭部が無防備に晒される。
「チャンス」
武茶士は足の結界を勢いよく伸ばし、更にジャンプをする。
空中でしっかりと拳に力を溜め、落下の力も加えて大猿の後頭部目掛けて拳を飛ばす。
「うりゃぁぁぁぁぁ!」
武茶士の放った拳は見事に大猿の後頭部を捉え、大猿は顔面から地面に叩き付けられたのだった。
「やった」
「凄えぜ」
「イヤッホ~」
固唾を飲んで周りで見ていた兵士から一斉に歓声が上がった。
「やったか?」
着地と同時に武茶士は構え、武茶士は警戒を解かなかった。
相手が完全に戦闘不能になったのを確認するまで、警戒を怠るなと虎次郎に嫌という程叩き込まれていたからだ。
大猿はしばらく動かなかったが、やがてゆっくりと立ち上がる。
歓声を上げていた兵士達が瞬時に静まった。
「あれでもダメか」
かなり力を溜めて急所に打ち込んだのに、それでも動ける大猿に驚く。
大猿の方も立ち上がりはしたものの、足下がふらつき目の焦点が定まっていなかった。
「まだチャンスは有るな」
無茶士は両拳に力を込める。
結界に力を注げば注ぐ程、飛ばした拳の威力が上がるのだ。
「うぉぉぉ」
力を注ぎ、
「ぉぉぉぉ」
力を注ぎ、
「ぉぉぉぉぉ!」
放った。
「これで終わりだぁぁぁぁ!」
力が充分に込められた結界の拳が大猿を目掛けて飛ぶ。
だが思わぬ事が。
野生の勘なのか、はたまた偶然なのか、武茶士の放った結界を大猿が掴んだのだ。
「な、なにぃぃぃぃぃ!」
強大な力で結界ごと引きずられ、振り回され、何度も地面に叩き付けられる。
結界をクッションにして衝撃を吸収しているが、全てを吸収しきれず、叩き付けられるたびに意識を持って行かれそうな衝撃が身体に走る。
「く、くそっ、離せ、離せよ」
何度も叩き付けられ意識が朦朧とし、ただもがくだけしか出来ない武茶士。
ついに大猿が手を離し、森の中に叩き込まれてしまう。
後書きです
いつもは千文字くらいで一区切りにしているんですが、今回は流れで一区切りにしたので、
変則になってしまいました。
大猿とのバトルを一括で読んでほしいという、作者の我儘です。
その割には内容が無いようと言われそうですけど。
最近、バトルシーン書いてないからそのリハビリです。
ではまた来週(@^^)/~~~
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