外伝1「さすらいの勇者1ー113」
「なんだと、魔主が二匹だと」
ジークが驚きの声を上げ、司令室の中はざわめく。
ここは砦の中庭に臨時で作られた作戦司令室。
既に魔法投影機が三基設置され、一つ目ちゃんからのリアルタイムの映像が映されていたのだ。
三つの内、二つの画面にそれぞれ別の魔主が映し出されていた。
「ありえんぞ、今まで一回の進行に一匹の魔主だけだったんだぞ」
クロウベルも信じられないという顔で画面を見つめていた。
「まっ、二匹になったのなら両方倒してしまえば問題ないか」
さすがは静かなる脳筋と呼ばれている男だ。
「俺もそう思っていたぞ」
二人して、
「ガハハハハハ」
と笑う。
周りの兵士は、
「一匹でも大変なのに、二匹倒すとかこの脳筋二人は」
と思っていたが、誰も口にはしなかった。
「しかし、二匹だけとは限りません。まだいる可能性も考慮した方がよろしいかと」
ジークの補佐官が進言する。
「それもそうだな」
気を引き締め直して、投影機の管理チームの方を向いて、
「聞いたとおりだ、まだ魔主がいないか捜索を頼めるか?」
しばらくひそひそと話し合っていたがサビエラが代表して、
「はい、夕方までなら大丈夫だそうです」
と答える。
「そうか、では頼む」
三つ有る内の魔主を写していない画面の一つ目ちゃんが、崖すれすれの高さを最大速度で飛行する。
まだ確認されていない魔主がいないかを確かめる為に。
小回りも利くが、名前の通り目が一つで、前方しか見えないのが唯一の弱点だった。
上から狙われても見えないのだ。
集音器が前方左右に一つずつと、後方斜め上に左右に一つずつ付いており、後方の集音器は上空から襲撃を警戒する為のものだが、無いよりまし程度の性能しか無い。
スピードを上げて崖すれすれに飛行しているのは、狙ってきた相手に崖に激突リスクを感じさせ、襲撃を躊躇わせる為だったのだ。
まだいるとも判らない、新たな魔主を求めて一つ目ちゃんは飛ぶ。
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