外伝1「さすらいの勇者1ー112」
混乱する兵達の頭上に浮かぶ船の方でも、魔獣の襲撃を受けていた。
タマーリンを無理矢理椅子に座らせて、ほっとするシルフィーナの頭の上を黒い影が過ったのだ。
「なに!」
咄嗟に見上げるシルフィーナ達。
頭上には今まで見た事の無い大きさの飛行型魔獣が、船を目指して超高速で向かってくるのが見えた。
「魔主!」
あの大きさは魔主でしか考えられない。
しかし、飛行型の魔主などここ数百年で二例しか無い。
「考えるな!」
シルフィーナは自分を叱咤して、直ぐに呪文を唱える。
風の刃が三本生じ、魔主目掛けて飛び立つ。
グエェェェェェ!
魔主が一声鳴くと風の刃は全て吹き飛ばされただけで無く、タマーリンも含めて船上の人間は一瞬金縛りに遭ったように動けなくなる。
「麻痺特性のある鳴き声?やっかいね」
効果は一瞬のようだが、その一瞬が戦場では致命的なのだ。
シルフィーナの障壁では音まで遮断出来ない。
「タマーリン、お願い」
出来れば頼りたくなかったが、もうそんな事を言っている場合ではない。
「はい、虹輝障壁」
船が一瞬にして虹色の光に包まれる。
「これを張っているとわたくしが攻撃出来ませんわ、わたくしが攻撃をした方がよろしいのでは?」
もっともな意見だ。
「ここで落とすと下に被害が出るかもしれないから、落とすなら魔獣の中に落としたい」
今、対峙している飛行型魔主は大型だ。
船が浮かんでいる高さから兵士達の中に落ちたら兵士に甚大な被害をもたらすだろう。
どうせ被害を出すなら、魔獣の方に肩代わりして貰いたいというわけだ。
「判りましたわ、後は宜しく先生」
タマーリンは虹輝障壁に集中する。
「じゃあ、ゆっくりと魔獣の群れの方に進んで」
シルフィーナ達を乗せた船はゆっくりと魔獣の群れの方へと進み始めた。
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