外伝1「さすらいの勇者1ー104」
おやつの頃になってチェンは帰ってきた。
「で、どうじゃった?」
ドンに聞かれてチェンは渋い顔をする。
「第一陣、中央に出撃が決まった」
ドンはチェンが渋い顔をしている理由を理解した。
「そうか、厳しいのう」
ドンの表情も厳しくなった。
「どういうこと?」
無茶士は二人が厳しい顔をしている理由がわからず、ヒットに聞く。
「対魔獣戦では、空中から最初に魔術師が魔術攻撃をして数を減らします。その後、森に潜むエルフ達が左右から矢を射かけて数を減すのですよ。そのお陰で左右の魔獣の数は減るんですが、矢の届き難い中央はあまり減らないので、大量の魔獣が押し寄せてくるんですよね」
しかも第一陣となれば、大量の魔獣に対して最初に相手をしなければならない。
二人の表情が厳しくなるのも当然だ。
「でも、うちの隊は武茶士やキマシ、モリノクは初陣ですよ。初陣三人も抱えてるのに、いきなり第一陣中央は無理じゃないですか」
温厚なヒットにしては珍しく、言葉が少し強めだった。
それだけ危険な場所なのだ。
「判ってるって。俺だって無理だって言ったんだよ・・・でもよ、魔術隊の総隊長のシルフィーナが強引に決めちまいやがってよ、あの女狐が」
チェンは怒りを抑えるように握った拳に力が入る。
少し離れた場所でやりとりを聞いていた虎次郎は、
「白炎、お前の力が必要になるかもしれぬ」
ぼそっと呟く。
「御意」
どこからともなく、人の声とは思えない返事が返ってきた。
午後の訓練が終わる頃、ギリとキマシが帰ってきた。
「エッグ、エッグ」
「ほら泣くなよ、部隊に付いたんだから、もう大丈夫だからさ」
泣きじゃくるキマシの肩を、ギリが抱き締めて帰ってきたのだ。
「キマシ、誰に泣かされた?わたしがぶん殴ってきてやる」
はやるレッドベルを、
「ベル違うの、虐められたわけじゃないから」
落ち着かせようとするギリ。
「シルフィーナさん怖い、タマーリンさん怖い」
怯えるようなキマシの呟きを聞いて、武茶士は大方の予想が付いた。
「二人にしごかれたのか?」
「うん」
頷くギリ。
「鬼よ、二人とも鬼よ!人の皮を被った鬼よ!」
キマシが絶叫する。
「作戦会議から帰ってきたシルフィーナさんにこってりと絞られたの、それにタマーリンさんも一緒になって地獄の大特訓が始まって・・・」
それを聞いて、一人納得する武茶士。
タマーリンとシルフィーナは間違いなく同類だ。
エルフで年齢を重ねている分、シルフィーナの方がタマーリンより質が悪い。
その二人にしごかれたのだから、キマシが泣いて帰ってくるのも頷けるのだった。
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