外伝1「さすらいの勇者1ー103」
「ほらほら、みなさんしっかり訓練して下さい。集中してませんよ。集中しないとケガをしますよ」
ヒットが手を叩いて注意する。
隊長のチェンは司令部から呼び出しを受け、お昼を食べた後に司令部に出頭していた。
それでみなが浮き足立ち、訓練に集中出来ていないのが見受けられたからだ。
チェンの不在時は、ヒットが隊長代理を務める事になっている。
集中を欠いた状態で訓練をすれば怪我の元になる、怪我をすれば、もし出動を命じられても出動に支障が出てしまう。
隊長の替わりに隊を預かる身としては、それだけは避けなければならない。
ヒット自身は内心で、
「いよいよか」
と覚悟を決めていた。
ギリとキマシは、結局、お昼を過ぎても帰ってこなかった。
魔術の練習となると、確かにここでは心許ない。
剣や槍、格闘戦と言った近接戦闘がメインの訓練しか出来ないので、キマシの扱う沼魔術は練習がやりにくいのだ。
なので、敢えてキマシ達の事は誰も口にしなかった。
残されたレッドベルは、新しく開発した技を黙々と練習を繰り返す。
「いつも三人でいるのに、一人で寂しくないのか?」
と無茶士に聞かれ、
「友達だからいつも一緒は違うと思うぞ。わたしはわたしでやる事がある、キマシ達はキマシ達でやる事がある・・・・・・でも、キマシ達がいないと、少し寂しいけどな・・・あっ、これキマシ達には言うなよ。絶対キマシが、この甘えんぼさんって言うからな」
頬を染めて本音を漏らす。
それぞれが訓練に励む。
チェンが司令部に呼び出された事で、いよいよ自分達も出撃が決まったと肌で感じたからだ。
ドンはサンチョと二人でモリノクの指導に当たり、武茶士はヒットと格闘訓練。
ヒットの変則攻撃にもだいぶ馴れ、武茶士はヒットの動きや攻撃の仕方から次の攻撃を予想出来るようになってきていた。
「参った、参りました」
ヒットがついに降参する。
「格闘を始めて数日だというのに、もうボクの技は一切通じないなんてショックです。さすがは勇者様ですね」
ヒットは嬉しそうに笑う。
「俺の方こそありがとうだよ。俺はこっちに転生したばかりだから、いくら勇者のタレント持っていてもその力の使い方が判ってないしさ。圧倒的に経験不足だから、こうして鍛えて貰うのは助かる。これからも宜しくな」
武茶士は感謝の気持ちを素直にヒットに伝えた。
「ボクの方こそいい経験をさせて貰いました、もっと精進して勇者の横の立てる強者を目指します」
その後、ヒットと無茶士は屈託なく笑い合う。
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