外伝1「さすらいの勇者1ー100」
「師匠、技を考えた。後で見て欲しい」
虎次郎の炊いてきた米をむしゃむしゃ食べながら、レッドベルが唐突に虎次郎に告げる。
「技?技って何?技って何さ」
これまた虎次郎の炊いてきた米をパクパク食べながら、キマシがレッドベルに聞く。
「それは後のお楽しみ」
「え~っ、ベルのケチ。今、教えてよ」
駄々をこねるキマシだが、
「ダメだ、最初に師匠に見て貰うんだから」
レッドベルも頑として譲らない。
「でもいいじゃない、教えてよ」
キマシの方もしつこい。
「人の嫌がる事しちゃダメって言ったよね、ベルの事を友達って思うなら友達の嫌がる事しちゃダメだよ」
ギリに怒られて、
「ベル、ゴメン」
レッドベルに謝る。
「判ってくれたならいいぞ」
それから三人で仲良く、虎次郎の炊いてきたご飯を平らげてしまったのだった。
「それじゃあ師匠、いくぞ」
レッドベルが手を上げる。
「おう、始めろ」
チェンが大声で怒鳴る。
「どんな技だろ、ワクワク」
キマシはワクワクした表情で待ち、
「レッドベルは虎次郎程、早くもないし跳ぶ距離も遠く及ばないけど大丈夫かな?」
たまにレッドベルの練習を見ていた武茶士は心配する。
虎次郎の周りには、隊のみんなが集まっていたのだ。
「娯楽が少ない所ですから、みんな娯楽に飢えてるんですよ」
ヒットが言い分け気味に説明する。
「やっ、やっ、やっ」
レッドベルが超高速で跳ぶ。
右へ、左へ。
稲妻の如く。
見ていた者達は、
「おおっ」
と言う感嘆の声を漏もらす、虎次郎以外は。
「虎次郎の瞬歩に比べたらまだまだだけど、これはこれで良いんじゃないか」
無茶士もレッドベルの成長の早さに驚き、素直に誉めた。
虎次郎の瞬歩は二十メートル程を一歩で瞬時に詰めてしまう技だ。
あまりの速さに余程の武人でなければ、目でその姿を追えず、まるでワープか何かをしたように一瞬で移動したように見えるだろう。
その虎次郎の瞬歩に速さも距離も及ばないが、それを補うためにレッドベルはレッドベルなりに工夫をしてきたのだ。
疲れ知らずの体力と小回りの利く体格だからこそ出来る技でもあった。
「曲芸だな」
虎次郎はそれしか言わない。
「そ、そんな師匠・・・」
がっくりと肩を落とすレッドベル。
「曲芸でも極めれば立派な技だ、しっかり精進しろ」
その言葉に、肩を落としていたレッドベルが顔を上げ、
「はい、頑張ります」
と気合いを入れ直す。
「一つ宜しいかな?」
ドンが手を上げる。
「なに?」
レッドベルが聞く。
「もう少し工夫しいかな。今のは一定過ぎて腕の立つ者なら見切られてしまうのう」
「そうだな、俺もそう思った」
チェンが横から口を挟む。
「ど、どうしたらいいんだ?」
「俺なら、横に跳ぶ距離を少し変えるとか・・・」
「前に出る距離をずらすとかじゃな・・・稲妻などその都度形が違うじゃろ?」
「稲妻・・・稲妻か・・・判ったやってみる」
レッドベルは走って離れると、
「いくぞ、見ていてくれ」
と手を振る。
構えると、再び左右に跳ぶ、稲妻をイメージして。
「ど、どうだった?」
「さっきより稲妻らしかったよ」
「そうじゃな、もう少し鍛錬は必要じゃが、先ほどより変則さが出て稲妻らしかったぞい」
それを聞いて、
「よっしゃあ」
とガッツポーズをするレッドベル。
「よし、この技を稲妻斬と名付けよう」
それから、各々、自分達の訓練に散っていった。
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