外伝1「さすらいの勇者1ー99」
スタッフ達が教えてくれたおすすめスポットまでの地図は頭の中に入っている。
モモエルのスケジュール管理をしていたお陰で、地図なども一度で覚えられるようになっていたのだ。
「無茶士さん、こっちです」
無茶士の手を引いて歩くサビエラ。
手を引かれて歩く先の方に魔法街灯とは違う青い光が見えてきた。
「ここです」
「ここは?」
武茶士は青く光っているモノを見上げた。
三階立てくらいの高さの石版の周りに、石柱が何本の立てられ、その石柱が光っていたのだ。
「ここで亡くなった方達の慰霊碑です」
言われて武茶士は石版の表面を改めて見て、その表面にびっしりと何かが掘られているのに息を飲む。
「掘られているのは、亡くなった方達の名前です」
この砦作られて百年以上の時を過ごしている。
砦を守るために亡くなった命の数は数知れずだろう。
「慰霊碑ってここだけ?」
「いえ、他にもあるそうです。ここは一番新しく造られた慰霊碑で、スタッフのみんなに綺麗だかデート場所にぴったりだと言われて」
慰霊碑の前でデートというのに違和感を覚え、
「俺、慰霊碑の前でデートとかちょっと・・・」
と言うと、
「無茶士さんは異世界から来たんでしたよね?こっちの風習になじめないのも仕方ないのかも・・・こっちの世界では命、軽いんです。病気で毎年大勢の方が命を落としているし、戦争や飢餓でも。だから、わたし達はこれからも元気に生きて行きますってご先祖様に見て貰うために、慰霊碑の前でのデートは普通なんですよ」
言われて、こっちへ転生してからしばらくやっかいになっていたチャトーラ、チャトーミの双子の兄妹の両親が、流行病で亡くなっているのを思い出す。
「自分の常識が絶対じゃないんですね」
ここは異世界であり、武茶士は人間ではなくケットシーに転生したのだ。
「いつまでも人間だった頃の事を引きずっちゃダメだな」
早くこの世界、ケットシーとしての生き方に馴染まないとと強く決意する。
「ごめんなさい、よかれと思ったんだけど」
サビエラが謝る。
「いやいや、サビエラさんが謝る事なんて全然ないです。お、俺がこの世界の常識を知らなかった・・・だけですから」
少しうわずりながら武茶士は問題ない事を伝えようと頑張った。
その頑張りの甲斐あって、
「無茶士さん、ありがとう」
無茶士の手をサビエラが両手で包み込むように挟む。
「サビエラさんの手、小さくて柔らかいな」
サビエラの手に包まれて、ちょっと舞い上がる武茶士。
サビエラの指に虹色に輝く指輪がはまっているのが目についた。
明るい場所ではあまり気にならなかったが、慰霊碑と魔法街灯だけしか明かりがない場所で、こうして目の前で見てしまうと気になる。
「その指輪は・・・」
「はい、タマーリン様から頂いた指輪です」
それはもしもの時、タマーリンの超強力な虹輝障壁を一時的に発生させる事が出来る指輪だった。
「もし、虹の柱が見えたら俺が一番で駆けつけます。それで絶対にサビエラさんを守りますから」
武茶士もサビエラの手を両手で包み込む。
「はい、信じてます」
サビエラは武茶士に身体を寄せて、肩を預ける。
武茶士も体重を少しサビエラに預けた。
奥手二人ではそれ以上進展する事もなかったが、二人はそれで十分幸せ。
「明日、別の慰霊碑を見に行きませんか?」
「はい、だったらわたし、お迎えに行きます」
こうして明日のデート先も決まった。
後書きです
無茶士とサビエラの恋バナも一応ひと段落。
次回から話が大きく動き出す予定です。
予定は未定で、書いてみないとわからないといういつものあれですが(笑)
今回も、あれ入れたい、これ入れたいを我慢して恋バナにひと段落付けたんですよ。
キマシたちが出ていると、つい書きたくなるんでもう脱線禁止で頑張りました。
それと次回から、徐々にシリアスになります。
ではまた来週(@^^)/~~~
(Copyright2024-© 入沙界南兎)