外伝1「さすらいの勇者1ー98」
「やっと動けた」
二人の姿が見えなくなった頃、レッドベルが動き始める。
「あらあら、あなたもう動けるの?もう少し動けないくらいには、魔力を込めましたのに」
少し驚くタマーリン。
「今のはタマーリンさんがやったのか?何故?」
「あなた達が、サビエラ達に付いて行こうとしたからですわ。もう、二人だけにしてお上げなさい」
言われてレッドベルはギリとキマシの方を見た。
二人はまだタマーリンの魔法によって固まったままだったので、諦めて二人の前にどっかりと座り込む。
「あなた達がサビエラの事を慕ってくれているのは嬉しいですわ、でも、これ以上はダメです。二人きりのだけで話したい事もあるでしょうから、二人だけにして上げて頂戴」
傍若無人のタマーリンにとしては珍しく、三人に向かって頭を下げた。
身動き出来ずに話だけ聞いていたギリとキマシ、二人の前に座り込んだまま聞いていたレッドベル。
内心、
「ちょっとやり過ぎたかも」
と反省した。
しばらくするとタマーリンの魔法が解け、ギリとキマシも動けるようになった。
「タマーリンさんて、サビエラ姉さんの事が好きなんだね」
さっきまでタマーリンの魔法で動けなくされていた事など何のそのとばかりに、キマシがタマーリンに聞いた。
「ええ好きよ、こんなわたくしの下僕をしてくれる大切な子ですもの、幸せになって欲しいですわ」
言ってしまってから、
「あら、こんな話をしてしまうなんてわたくしらしくない・・・」
とはにかむように笑ってから、
「下僕の面倒を見るのは主人の勤めですわよ」
と言い直す。
でも既に手遅れだった。
「タマーリンさんて、本音はいい人なんだ」
既にギリ達三人の中で認定されてしまっていたのだった。
「さ、帰りますわよ」
「は~~い」
それぞれが帰途についた。
武茶士とサビエラは街灯が照らす夜の道を手を繫いで歩く。
結界を使い、自分達の後をついてくる者達がいない事を確認する武茶士。
「あいつら、付いて来てないです」
武茶士の言葉にほっとルサビエラ。
「姉さん」
と言って慕ってくれるのは嬉しいけど、流石にこれ以上はお邪魔虫でしか無い。
折角、無茶士が勇気を出して誘ってくれたのだから、二人きりになりたかったのだ。
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