外伝1「さすらいの勇者1ー97」
食事も終わり、デザートを食べててほっとしていると、
「食べ終わったらさっさと席を空けて、あなた達がいると他の人が入って来れないから。ほら、あれ」
シルフィーナの指さす入り口の方を見ると、恐る恐る様子を見に来た魔術師がタマーリンの姿を見た途端に逃げていく姿が見えた。
「そうですね、もう終わったなら退散しましょうか」
「ですね、迷惑みたいだし」
サビエラと無茶士が立ち上がる。
「あら、気にしなくて宜しいのよ。もっとゆっくりとすれば良いのですわ」
タマーリンは立ち上がるどころか、更に居座る気満々だった。
「あなたが一番の問題でしょ、さっさと出て行く」
「そんな先生、つれないですわ」
と言いながら、やおら立ち上がると、
「あなた達も行きますわよ」
様子を見ていたギリ達に声をかける。
「どうする?」
「武茶士達がいないのに残っても仕方ない」
「そうだ、チュウを見られないじゃないか」
ひそひそと話し合ってから、
「行きます」
三人は立ち上がりタマーリンに続く。
武茶士達も三人の後に続き、タマーリンが先頭になって進む事になる。
入り口を抜け廊下に出ると、食堂に入りたくても入れずにたむろしていた魔術師達がタマーリンの姿を見ると一斉に廊下の両側に直立不動で立ち並んだ。
「お見送りご苦労様」
タマーリンは平然とした顔でその間を歩く。
その後ろを歩くキマシとレッドベルは、
「どうも、どうも」
「お世話になりました」
脳天気に手を振って愛想を振りまく。
二人の間にいるギリは気まずそうに下を向いて歩いた。
「しっかり前を向いて歩いて下さい。タマーリン様と一緒にいると、こんな事いつもの事ですから」
サビエラが武茶士に囁きかける。
「ああ、判ってますとも」
武茶士とサビエラは両側に人が並ぶ廊下の真ん中を、手を繋ぎ毅然として進む。
やがて廊下を抜け、人がいなくなる所まで出ると、
「だぁぁぁ」
一気に緊張を抜く武茶士。
「あはははは」
隣でサビエラも苦笑いする。
「はいはい、皆さんお疲れ様でした」
タマーリンが手を叩き、みなの視線を集める。
「今日はこれで解散ですわ、もうお帰りなさい」
と言いつつ、サビエラにこっそり目配せした。
「そうね、明日も忙しいから早く帰って明日の仕度しなくちゃ」
わざとらしいくらいに大声を出しながら、タマーリンの方をチラッと見る。
「あなた達もお帰りなさい、明日も訓練があるのでしょ?」
ギリ達三人に声をかける。
「でも・・・」
三人はどうしようかと顔を見合わせる。
ギリ達がなかなか動かないので、
「あっ、いけない。大事なモノを作業現場に忘れて来ちゃった!」
更にわざとらしい声を上げてからサビエラは、外の様子を見る。
日が落ち、外は暗くなり始めていた。
人通りもなく、魔法街灯のスイッチを入れて歩く用務員くらいしか見当たらない。
サビエラは武茶士の方を見た。
「もう暗いから、俺が一緒に行きますよ」
サビエラの顔がぱっと明るくなり、タマーリンも満足そうに頷く。
「それじゃ、わたし達・・・」
何かを言いかけた三人が、突然固まって動けなくなった。
ほぼ無詠唱レベルでタマーリンがバインドを使って三人を拘束したのだ。
ドラゴンですら一時間は拘束出来るタマーリンのバインドに、並の人間が抵抗出来るはずもない。
何が起こったか察したサビエラは、
「ありがとうございます」
タマーリンに頭を下げ、武茶士と手を繋ぎ街灯の明かりの向こうへと消えていった。
(Copyright2024-© 入沙界南兎)