外伝1「さすらいの勇者1ー95」
「その割に、最初は反対方向に歩いてったじゃない」
キマシに言われ、ドキッとする武茶士。
「そ、それはだな」
「無茶士さん・・・」
唐突の指摘に、心配そうに無茶士の顔を見るサビエラ。
「サビエラ、そんな顔しない」
タマーリンがそっとサビエラの肩に手を置く。
「タマーリン様・・・でも」
「大丈夫よ、わたくしが説明するから」
優しく微笑みかける。
「その男、方向音痴だから道を間違えただけですわ」
ズバリと言い放つ。
「え~っ、訓練所からほぼ真っ直ぐだよ。普通間違えないよね?」
「そうだな、あたしなら初めての所でも地図貰えればたどり着ける。もう二回も来てる場所なら、間違えようがないよ」
言い放つギリ。。
「わたしも、地図だけで初めての場所にたどり着けるぞ。二回も来ている場所なら、目をつぶっても来れるぞ」
レッドベルも同調し、武茶士の肩がプルプルと震えた。
「う、うっさいな・・・人それぞれ向き不向きが有るんだよ、俺は道を覚えるのが苦手なんだよ、悪いか」
開き直る武茶士。
「悪いですわよ、この前マオが愚痴ってましたわよ、
「無茶士を一人で倉庫に行かせると予の三倍時間がかかるのじゃ、だから毎日、予が無茶士を倉庫に連れて行っておるのじゃ。
武茶士は手がかかってしょうがないのじゃ」
かなり真剣に怒ってましたわよ。
どっちが保護者だか判らないですわね」
ホホホホと笑うタマーリンに、武茶士は言い返せなかった。
本当に毎朝、マオに倉庫に連れて行ってもらうと言うより、連行に近い状態でマオに引きずられて倉庫に通っていたからだ。
マオは武茶士が保護者として預かっている子供という説明は聞いていたので、その子供に迷子にならないように仕事場に毎日連れて行ってもらっていると聞いて、
「あっ、なんかごめん」
キマシが気まずそうに謝る。
「あたしも悪かったよ」
「わたしも・・・すまん」
ギリとレッドベルが謝る。
なんか気まずい空気が場に流れた。
「いいのよ、無茶士さんがこうやって来てくれたんだから」
その空気を破ったのはサビエラだった。
「無茶士さんも、言ってくれればわたしが迎えに行ったのに」
ニコニコ笑いながら武茶士を見る。
「いや、俺・・・」
「その男に方向音痴の自覚がないのですわ、わたくしの家にも何度も来ているのに遅刻しなかった事が一度もないのですわよ」
怒るタマーリン。
「いやそれは・・・」
遅くなったのは、酷い目に合うのが判っているので本気で行きたくなかったのだが、行かないと更に酷い目に合うので嫌々行っていたからなのだが、それを言ったら言ったで酷い目に合うのは判りきっていたので、
「こ、これから、き、気をつけます」
とお茶を濁す。
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