外伝1「さすらいの勇者1ー94」
「あら、あの子達は?」
無術士達が逃げ出した後、ギリ、キマシ、レッドベルが残された。
今までは魔術師の影に隠れて見つからないようにしていたのだが、その魔術師がタマーリンによって逃げ出してしまい、取り残された形となったのだ。
「えっ、何々?」
「やば、見つかった」
「みんな、どうして逃げた?」
キマシとレッドベルはきょとんとその場に立ちすくみ、ギリは気まずそうにタマーリンの方を見ていた。
「あなた達、こちらへおいでなさいな」
タマーリンが招き寄せる。
「呼ばれたよね?」
「呼ばれたな」
キマシとレッドベルが確認しあい、ギリの方を見た。
「逃げられる状態じゃないから、行こう」
ギリが先頭に立って歩き、キマシとレッドベルはその後に続く。
「なんでお前らがいるんだ!」
ギリ達の姿を見て武茶士が、ガタッと音を立てて立ち上がる。
「なんでって、武茶士が怖じ気づいて逃げないように見張っていたんだよ」
ギリは見つかった時の為用に、考えておいた言い分けをする。
案外、これが効果があった。
「お、俺は逃げたりし・・・しないか・・・ら」
言い淀む武茶士。
本当のところ、逃げ出したい気持ちが無かったわけではない。
「俺いいのかな?本当にデートなんてしていいのかな?」
待ち合わせ場所まで歩く間、不安な感情がよぎり続けていたのだ。
初めてのデートで浮かれる反面、心の奥底でデートに対する不安を抱えたまま待ち合わせの場所まで来た。
待ち合わせ場所の近くで、サビエラが来ているのを見て嬉しい反面、怖じ気づく自分もいたのだ。
「ダメだ、ここで逃げたらサビエラさんが悲しむ」
そう心の中で叫んで、勇気を振り絞ってサビエラに声をかけたのだった。
その後、サビエラの嬉しそうな顔を見る事が出来たので、
「声をかけて良かった、逃げないで良かった」
と心の中で泣いたのだった。
とことん、恋愛に関してはヘタレな勇者様なのである。
「無茶士さんはわたしを置いて逃げたりしません!」
サビエラが少し強めの口調で怒る。
それを聞いて武茶士は内心焦るが、それを表情に出さないように苦労した。
「そ、そうだぞ。この俺がだな、サビエラさんを置いて逃げたりするわけないだろ。いい加減な事を言うと、怒るぞ」
引け目の為か、あまり強い口調にならない武茶士。
それに何かを察したのかタマーリンが、
「うふふふ」
と意味深に笑う。
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