外伝1「さすらいの勇者1ー89」
「武茶士、しっかりしなさい。男の子でしょ?ここはガツンと決める場面ですわよ」
タマーリンがハッパをかける。
「で、でも俺なんて言えばいいか・・・」
恋愛経験が無いので判っていても動けないでいた。
「最初はご飯だよ、ご飯食べに行こうでいいんだよ」
キマシが横から応援する。
「そうだぞ、サビエラ姉さんだって断ったりしないぞ」
レッドベルの言葉にサビエラは下を向いて小さな声で、
「うん」
と言い、期待を込めた目で無茶士の顔を見上げる。
武茶士は唾を飲み込むと意を決して、
「さ、サビエラさん、い、一緒にしょ、食事でも・・・」
「はい」
「いいんですか?」
「はい」
「や、やったぁ!」
ガッツポーズをする武茶士。
「そ、それじゃあ今夜の夕食でも」
「はい」
満面の笑みで頷くサビエラ。
「じゃ、じゃあ、今日の夕方迎えに来ます」
「お待ちしています」
その後、武茶士は三人娘を引き連れ部隊に戻った。
部隊に戻ると、再び訓練。
武茶士はまたヒットと格闘の練習をすることにする。
最初の内は問題なく練習メニューをこなし、ヒットとの手合わせもそつなくこなしていたが、待ち合わせの時間が近くなるに従ってそわそわし始め、練習に身が入らなくなる。
「ちょっと武茶士、しっかりして下さい。今のは避けられてましたよ」
ヒットのいいパンチをまともに食らい、吹き飛ばされた武茶士にヒットが駆け寄る。
「いててて」
パンチを食らった頬をさする武茶士。
結界は自動防御して守ってくれるが、ヒット程のパンチとなると意識を集中して魔力を送り込まなければ完全に防ぐことが出来ないのだ。
「さっきから集中力を欠いて、変ですよ。何か有りました?」
ヒットが心配そうに無茶士の顔を覗き込んでくる。
「う、うん。この後デートなんだ」
武茶士は照れ臭そうに笑う。
「デートですか・・・それはいいですね。お相手は・・・・・・昨日来ていたの、可愛い感じのケットシーの方ですか?」
バレバレだった。
「そうだけど・・・なんで判ったの?」
ヒットはやれやれという顔をして、
「あれで気がつかない方がどうにかしていますよ」
「そ、そうか」
顔を赤くして照れ臭そうに下を向く武茶士。
「ただ、俺。デートとか初めてだから、何したらいいか判らなくて・・・ちょっと怖い」
前世も含めてデートは初めてだったのだ。
「俺さ、前の世界でもモテなくてデートかしたこと無くて・・・嬉しい反面、怖いという気持ちも有ってさ」
自分の気持ちを素直に吐露する。
「ボクも修行にかまけてばかりいて女性とは縁遠いので偉そうなことは言えませんが、いつも通りの武茶士でいいと思いますよ。試合でも、変にかっこつけようとするとうまくいきませんから。自然体で望むのが一番力が出ます」
ヒットらしいアドバイスだったが、
「ありがとう、お陰で肩の力が抜けたような気がする」
「いえいえ、友達じゃないですか」
爽やかに笑うヒットの見て、
「ヒットと知り合えて良かったよ」
武茶士も笑う。
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