外伝1「さすらいの勇者1ー88」
「あら、あなたも行きたいなら一緒に行ってもいいのよ」
レッドベルにシルフィーナが声をかけた。
「わたしも一緒に行っていいのか?」
「あなたが行きたいと思うならね」
優しく微笑みかける。
「で、でもご一緒する理由が・・・それにお父様の許可も取らないと」
精神的に追い詰められると育ちの良さが出てしまうようだ。
「理由?理由なら有るでしょ」
その言葉に顔を上げるレッドベル。
「あなた虎次郎に稽古を付けて貰っているんでしょ?ならば虎次郎の弟子よね?弟子が師匠に稽古を付けて貰うために旅に出るのは普通でしょ?」
レッドベルの顔が見る見るうちに明るくなる。
「そうだよ、師匠について行くのは普通だ・・・あっ、でもお父様が」
「クロウベルの説得ならわたしに任せなさい、昔からの知り合いだからちゃんと許可を取って上げるわ」
「本当か、頼んでも大丈夫か?」
「ド~~ンと任せなさい」
シルフィーナはドンと胸を叩く。
「キマシ、ギリ、わたしも一緒に行くぞ」
「ほんと?」
「やったなベル」
三人は手を取り合って喜ぶ。
レッドベル達が喜ぶ声を聞きながらシルフィーナは、
「久しぶりにクロウベルを虐められるわ」
悪い顔をしてクックックッと笑う。
流石にタマーリンに先生と呼ばれるだけは有る。
「さて、用事も済んだ事だし帰るぞ」
武茶士が立ち上がる。
「いいの?」
キマシが聞き返す。
「何がだよ」
「サビエラさんと、なんか約束した方がいいじゃない?」
と言われて、武茶士はチラッとサビエラの方を向く。
サビエラと目が合う。
その目は何かを期待しているように見えた。
こういう時、どう行動すればいいか判らず、自分の恋愛経験の無さを恨む。
そして周りの視線に気がつく。
「お前らなに見てるんだよ、見世物じゃ無いんだぞ」
と怒鳴るが、
「ヒューヒュー、妬けちゃうね」
「ここで思い切ってコクっちゃえ」
と逆にからかわれる。
「お、お前らな」
武茶士の肩がプルプル震える。
その武茶士の肩に優しく手が置かれた。
「無茶士さん、無理しなくていいんですよ」
手の主はサビエラだった。
「サビエラさん・・・」
お互いに見つめ合う。
「お互いに気持ちは判っているのですから、もう加減に「さん」付けはお止めになられた方がよろしくてよ」
タマーリンの言葉に、顔を真っ赤にして俯く二人。
「これはダメですわね」
やれやれとばかりに首を振るタマーリン達。
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