外伝1「さすらいの勇者1ー86」
「そんな事ないです、タマーリンさんやっぱり凄いです。わたしも一度魔力切れした事有りますけど、何も考える事も出来ないうちに気を失っちゃいました。それを気力だけで耐えるなんて、本当に凄いです」
キマシがキラキラした目でタマーリンを見つめていた。
ミケラ以外にそんな目で見られた事が無いので、少し照れるタマーリン。
「と言うわけで、タマーリンは現在絶賛魔力回復中というわけ。だからしばらく出撃も無し」
シルフィーナの説明に、ようやくみなも納得した。
「ところでキマシ、あなた、タマーリンの弟子にならない?」
唐突の申し出に、
「えっ、えっ」
目を白黒させ言葉に詰まるキマシ。
「ちょっと先生、突然何をおっしゃっているんですか?キマシも驚いて困ってますわよ」
「あら、あなたこの子達の事を気に入ったんでしょ?だったらキマシを弟子にして上げてもいいんじゃないの?」
「それとこれとは別でです。それにわたくし、人にモノを教えるのは得意ではないですから。弟子にするなら先生の方が適任ですわ」
武茶士はその言葉を実体験していた。
結界の強化だと言って、ひたすら攻撃魔法を浴びせかけられるのだ。
とても教えのが上手とは言えない。
「あっ、わたしもそれがいいです。タマーリンさんは尊敬してますが、雲の上過ぎて恐れ多いと言うか・・・」
「あらら、わたしでいいの?」
「はい」
「そう、それでいいなら今からわたしの弟子ね」
あっさり決まった。
シルフィーナはにやっと笑うと、
「と言う事で、タマーリン」
タマーリンは凄く嫌な予感がしたが、口を開く前に、
「あなた、妹弟子の面倒を見なさい」
やっぱりと思ったが、
「反論無しで、あなたが国に帰る時にその子、お持ち帰りしてね」
シルフィーナはウィンクをする。
「えっ、えっ、どういう事です?」
訳が判らず、混乱するキマシ。
「つまり、タマーリンに着いていってさっさとこの砦から逃げなさいと言っているの」
キマシはようやく何を言われているか理解した。
「でも、でも、わたしが逃げたギリが一人になっちゃうから・・・」
正直を言えば、シルフィーナの申し出は嬉しかった。
昨日、船の上から見た魔獣は本当に怖かった。
前戦に出て、間近で魔獣を見たら自分はその恐怖に勝てる自信がない。
心の中では今の申し出に飛びつきたい自分が存在したが、ギリを置いてはいけない。
自分がいなくなった後にギリにもしものことが有ったらと思うと、飛びつきたい心も萎んでしまうのだ。
「バカね、あたしの事なんて気にしなくてもいいから。折角いい話なんだから、行きなさいよ」
「バカって何によ、バカって・・・どうせわたしはバカだもん、だからギリと一緒じゃなきゃ絶対に行かないもん」
頬を膨らませてぷいっと顔を背けるキマシ。
「キマシ・・・あたしだってキマシと行きたいけど、家に仕送りしないとならないから」
ギリの家はあまり裕福ではないので、給料の一部を家に仕送りしているのだ。
「わたしだって家に仕送りしてるよ・・・あっ、仕送りどうしよう?」
キマシの家もギリと同じくらい裕福ではなかった、タマーリンに付いて行ってしまうと家に仕送り出来なくなるのはキマシも同じだったのだ。
「お金の心配?それは大変だよね」
人事のように言いなが、シルフィーナはむふふと笑う。
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