外伝1「さすらいの勇者1ー85」
「それでは続けます。地表面は上を歩いて渡れる程には固まっているように見えましたが、上昇気流が酷く、また熱で空気が揺らぎ遠くの景色が霞んで見えない程でした。
それらを考察して、内部には相当な熱量が溜まっていると結論づけました」
サビエラは一旦言葉を切り、周りの反応を待った。
が誰も言葉を発する事もなく、シルフィーナが続きを促すように頷いただけだ。
「熱で霞む先に黒い塊のような物が見えたので、上昇気流の影響を受けにくい谷の縁沿いに一つ目ちゃんを移動させました。
そこで見たモノは折り重なった魔獣の死体の山です。
その山の向こう側にも魔獣の死体が延々と続いていたので、仲間の魔獣の死体を足場に進み、最終的には熱で命を落としていって死体の山を築いたのだと思われます」
サビエラの話を聞き、その様子を想像してギリとキマシはげんなりとした表情になる。
「それだから今日の魔獣の襲撃は無い。一日に出てくる魔獣の数は限りが有るからね、まだ推測の段階だけど、一日に魔主が集められる魔獣の数に限界があるのだと思うよ」
シルフィーナが説明を引き継ぐ。
「とは言っても、明日になれば谷の熱は今日より冷めてしまうからね。
それに死んだ魔獣の亡骸を渡ってこられたら明日か明後日にはこちらに来てしまうかもしれない。
だから亡骸を渡ってこられないように、亡骸の排除のために船を飛ばしているのさ。
上昇気流で揺れる船をいかに安定させ、そして長距離から亡骸に攻撃魔法を当てる。
いい訓練になるよ」
シルフィーナはあはははと笑う。
「タマーリンさんは行かないの?」
ふと疑問に思い、キマシが口にする。
「これが行ったら訓練にならないじゃない」
「これは呼ばわりは、いくら先生でも酷いと思いますわ」
タマーリンが口を尖らせる。
「それに行けない理由もあるのさ」
「そ、それは言わない約束でしょ」
慌てるタマーリン。
シルフィーナはそんなタマーリンを完全に無視する。
「谷ひとつ、溶岩の海に変えてしまう程の魔法を使ったらどうなると思う?」
と問われて顔を見合わせるギリとレッドベル。
「はい、先生」
キマシが手を上げた。
「はい、キマシ君」
シルフィーナも調子に乗って、先生モードでキマシを指名する。
「わたしなら、魔力枯渇して倒れてます」
「はい、正解。みんな、キマシ君に拍手」
なんかよく判らないが、取り敢えず拍手するギリとレッドベル。
「先生、調子に乗りすぎですわ」
タマーリンがシルフィーナの隣から肘で突く。
「これ、実は昨日、魔力切れ起こして気を失う寸前だったのさ」
「そうなんですか?全然気がつかなかった」
目を丸くして驚くキマシ。
「この子、子供の頃から意地っ張りだから。他人に弱みを見せないためなら気力で踏ん張っちゃうのよ、可愛いでしょ?」
ふふふと笑うシルフィーナ。
「やめて下さい先生、ここでする話ではありませんわ」
少し頬を染めて止めるタマーリン。
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