外伝1「さすらいの勇者1ー83」
家が名家で才能も図抜けて高いと、本人の意思に関係なく世間の目をどうしても集めてしまう。
小さい頃からそれが嫌でたまらなく、何度も癇癪を起こしたものだ。
両親に訴えても、
「それが貴族の役目だ」
と聞く耳すら持って貰えなかった。
唯一の理解者は祖父だけ。
「お前の好きになさい」
と優しく微笑み。
「お前には魔法の才能があるな」
とシルフィーナを家庭教師として手配したのも祖父だ。
その祖父も亡くなり、タマーリンも癇癪を起こす歳でもなくなり、結局、逃げたのだ。
家に縛られるのも嫌、家名に押し潰されるのも嫌、その声を聞いてくれる理解者もいなくなり、かと言って癇癪を起こすわけにもいかない。
癇癪をまた起こして忍びの里のような事はしてはならないと、自分に深く言い聞かせて暗示をかけ自分を縛ったのだ。
故に逃げ出した。
逃げて、逃げた先でミケラに出会ったのだ。
最初は街の中を元気に遊び回る子供の一人、くらいにしか思っていなかった。
ある日、街の子供の一人にしか過ぎないミケラを、忍びの里の者が密かに警護しているのに気がついたのだ。
その場で警護をしていた忍びの里の者を捕まえ、締め上げて初めて目で追っていた小さな女の子が、実は自分の年下のおばさんだと知った。
最初は驚いたものの、元気に遊ぶ姿に癒やされるようになっていった自分に気がつく。
ミケラの姿が唐突に見えなくなり、城に連れ戻されたと知った時の虚無感は今でも忘れられない。
しばらくしてミケラが城を抜け出すようになって、街で見かけた時の喜びはとても言葉では言い表せない。
いつしかミケラの周りにはチャトーラ、チャトーミ、虎次郎達が集まるようになったのを見て、本気で嫉妬した。
いつか街に出たミケラに声をかけて一緒に散歩をしたいと思いつつ、声をかけそびれている内に周りに人が集まってしまったのだ。
人を人とも思わないタマーリンだったが、惚れた相手にはシャイな乙女になってしまう一面もあった。
それがたとえ五歳の女の子が相手だとしても。
ミケラ達が、街に来たばかりのクロを捕まえようとしていた時に声をかけた時も、勇気を振り絞っての事だったのだが、それを他人に気取られるようなミスをしないのがタマーリン様のタマーリン様所以である。
幸い、チャトーミとは顔見知りだったのでだしに使わせて貰った。
間近で見るミケラは可愛さ百倍、いや一万倍だった。
ミケラの手を繋ぎながら、
「お持ち帰りしたい」
と本気で不埒な事を考えていたが、ミケラの中に眠る力の一端に触れて情愛が忠誠へと変わったのだった。
今ではミケラの笑顔を見られる事が一番の幸せで、その笑顔を守るためなら世界相手にケンカをする覚悟をしていた。
「ねえタマーリン、あなたあの子達の事引き取らない?」
唐突の申し出に目が点になるタマーリン。
「ど、どうしてわたくしがあの子達の事を、引き取らなければいけませんの?」
驚くのは当然だろう。
「あの子達の事、気に入っているんでしょ?ここに居たらあの子達死ぬわよ」
それは半分脅しで、半分事実だった。
前線に出れば魔獣の脅威にさらされる。
前衛が抜かれれば戦闘力の低いキマシなどひとたまりも無いだろう。
ギリも斥候としては年齢の割に優秀だったが、戦闘力はキマシよりまし程度にしかなく、魔獣に襲われれば助かる確率は低い。
レッドベルも一人で突っ走る性格だ、一人で魔獣の群れに突っ込んで行きかねない。
「う~~っ」
さしものタマーリンも言葉が詰まる。
「それと、わたしの面倒も見てくれると嬉しいな」
しれっと自分もタマーリンに世話になる事をアピールするシルフィーナだった。
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