外伝1「さすらいの勇者1ー80」
「それで、あなた達何か用があってここまで来たんでしょ?」
「さっき、一杯船が飛んでいったのに警報の鐘が鳴らないから変だなと思って、サビエラ姉さんなら何か知ってるんじゃないかなってみんなで相談して来たんだ」
レッドベルが説明する。
「あれだけ船を飛ばして、警報が鳴らないのは確かに変だと思うわよね。急に決まった事だから、周知してる暇も無かったし」
「知っているの?」
色めき立つ三人。
「当然でしょ、魔術師部隊の指揮はわたしが取っているんだから」
シルフィーナは魔術師部隊の総隊長的存在なので、隊の運営は当然シルフィーナ経由になる。
「あの船が飛んでいったのはタマーリンの所為よ」
「わたくしですの?」
少し驚きの表情をするタマーリン。
「まっ、タマーリンの所為と言うよりお陰と言うべきかしら?あなた達も見たでしょ、昨日の溶岩の池」
ウンウンと頷くキマシとギリ。
「今朝、例の一つ目ちゃんで様子を見に行ったら表面は固まっていて歩いて渡れるようになっていたわ・・・でもね、そこで面白いモノを見つけたの」
そこで一旦言葉を切って周りを見回す。
「面白いモノって何ですか?」
「うふふふ、それはね・・・魔獣の死体の山よ」
「魔獣の」
「死体の」
「山?」
目を丸くして驚く三人娘達。
「どうしてですか?どうして魔獣がそんなに死んでいたんですか?」
つい熱くなってシルフィーナに詰め寄るレッドベル。。
「まあまあ、落ち着いて。これから話すから」
シルフィーナは軽くレッドベルをいなすと、
「表面は固まって歩けるようになったように見えるけど、中はまだ相当の熱を持っていて、そこに魔獣達が突っ込んできて次々と死んだ。その結果、死体の山を築いて全滅したみたいなのよね」
「どんだけ熱いんだよ」
と無茶士は突っ込みかけたが、転生する前に火で炙って熱した石で料理をするのをテレビの特集で見た事を思い出し、
「一種の石焼きみたいなものか?」
と思い直す。
谷一つまるごと使った壮大な石焼きではあるが。
「それで溜まった死体の山の掃除と、少しでも今の状態を保つために谷に火炎魔法を打ち込みに行っているのよ。焼け石に水だけど、やらないよりましな程度にはなるかしら」
シルフィーナはにこやかに説明した。
それはそうだろう、お陰で今日も魔獣の襲撃はないのだ。
言い換えればそれで犠牲になる味方が出ないという事。
にこやかにもなるというものだ。
それをシルフィーナの横で涼しい顔をしてお茶を飲んでいるタマーリンが、たった一人でやったのだ。
武茶士は改めてタマーリンの凄さを認識した。
「あら武茶士、わたくしの顔を見つめてどうしましたの?もしかして惚れました?でもダメですわよ、わたくしの操はミケラ様に捧げるのですから」
と言いつつ身体をくねくねさせるタマーリン。
「あんた、それいい加減いやめなさいよ。見ていて気持ち悪いから」
シルフィーナに言われるが、
「気持ち悪いだなんて先生ひどいですわ、ミケラ様の事を考えると身体が勝手に動いてしまうのです。それだけ、わたくしがミケラ様の事を思っているからですわ」
頬を赤くさせ、恋する乙女の表情になるタマーリン。
「はいはい」
面倒くさくなってシルフィーナは聞き流した。
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