外伝1「さすらいの勇者1ー76」
「結界をクッションするのは結構役に立ってるな、お陰で地面に叩き付けられても怪我を・・・むっ、クッションか・・・・・・そうかクッションなんだ」
無茶士の頭に唐突に何かが閃いく。
「よし、試してみるか」
武茶士の表情が変わった事にヒットも気がついた。
「何か思いついたんですか?」
「内緒、でもさっきみたいにはいかないから」
悪戯っぽく笑ってみせる。
「それは楽しみですね」
ヒットも嬉しそうに笑う。
「それでは再度行きますよ」
ヒットが構え、拳を放つ。
それをギリギリで躱す武茶士。
先ほどから何度も繰り返した、同じやりとりだ。
ヒットの身体が沈み込み、
「足払いが来る」
と距離を取る武茶士。
だが、ヒットは足払いをしなかった。
武茶士が後ろに跳ぶのに合わせて地面に手を着き、そのまま片足を後方ジャンプしたばかりの胴体に強烈な蹴りを入れたのだ。
空中にいる武茶士は避ける事も出来なく、もろにその蹴りを貰い後ろに跳ばされたのだった。
ただ、ヒットは蹴りを入れた瞬間、妙な感触を感じ戸惑う。
蹴りを入れられて跳ばされた武茶士の方は、あまり飛ばされる事も無く着地する。
「今のはなんです?」
答えを求めてヒットは武茶士に尋ねた。
「地面に叩き付けられる時に結界をクッションにして衝撃を吸収していたんだけど、もしかしてヒットの蹴りにも使えるかなと試してみたんだ。思っていた以上に効果があったよ」
武茶士がにかっと笑う。
武茶士の説明にヒットはさっきの変な感触の正体がわかった。
「成る程、ボクの蹴りの力をクッションにした結界で防いだわけですね」
力が吸収され、それで武茶士はあまり飛ばなかったのだと納得する。
「流石です、一度見ただけで直ぐに対策を打てるとは」
「なんとなく、どうすればいいか唐突に頭に浮かぶんだよね・・・これも勇者の力の一つなのかな?」
武茶士はよく判らないとばかりに首を捻った。
「そうだと思いますよ。武茶士は格闘の経験が無いのに、直ぐに対策を思いついた。あっさり対策を思いつくなんて、知識も経験も豊富な熟練者のレベルですよ」
「やっぱり勇者の力なのか・・・」
チートくさいなと思いつつ、その勇者の力さえ及ばない二人を思い浮かべる。
一人は虎次郎、力の差がありすぎて小細工など一切通用しない。
練習でなんとか試合の形になっているのは虎次郎が力を隠しているから、武茶士はそんな気がしていた。
何か確証があるわけではなかったが。
今は兎に角、少しでも追いつきたいと思う目標だった。
その虎次郎を手玉に取っているのがタマーリンだ。
昨日、タマーリンが本気で放った魔法の威力を見せられて確信した。
もしタマーリンが本気になったら、自分なんて一瞬で結界ごと消し炭にされるだろうと言う事を。
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