転生したら最強勇者になったが、住民の方が優秀だった件 その11
「皆さん、行き渡りましたね。それではいただきましょう」
ミケラもみんなと一緒に「いただきます」を言って食べる。
「うぉぉ、うめぇぇぇ!」
「本当に美味しいね兄ちゃん」
チャトーラとチャトーミは涙を流しながら食べる。
「流石に妖精の宝石と言われるだけあって美味しいですね」
クロも感激の声を上げた。
「どうよ姫さん、美味しいだろう」
「うん」
ミケラは口一杯に頬張りながら答える。
「そうだろう、そうだろう」
ミミは嬉しそうに笑う。
「おかあさんとサクラーノにも食べさせてあげたいな」
サクラーノとはミケラの乳母タマンサの娘で、ミケラとは乳姉妹になる。
「タマンサにはわたくしが後で届けますわ」
タマーリンがミケラの皿からアップンゴの実を四つ取り分けると、女将がパンを入れて寄こした袋にしまう。
「お願いね」
「はい、確かに」
タマーリンはミケラが心優しく育ってくれているのを微笑ましく思う。
「これもタマンサの御陰ね」
タマンサに心の底から感謝した。
「食べ終わりましたね、では運動会を始めましょう」
「パプパプ」
「ドンドンドン」
タマーリンが良く通る声で宣言をすると、皆が一斉に拍手し、チャトーラとチャトーミが口楽器で盛り上げる。
「では最初はチャトーラね、準備宜しい?」
「ちょっと待ってな、ただ走るだけじゃ面白くないからこの玉を取って来て、先にここへ戻ってきた方が勝ちってのはどうだ?」
チャトーラの提案にタマーリンは武茶志の方を見る。
「俺はかまわないですよ」
「あなたが良いならそれで行きましょう」
「決まりだな。チャトーミ、この玉を向こうに見える木の下に置いてきてくれよ」
「あいよ兄ちゃん」
チャトーミは玉を持って指定された木まで走る。
「姫様ちょっといいですか?」
と言ってチャトーラはミケラを少し離れた場所に連れ出す。
チャトーラが何か説明しているようだが話の詳細は聞こえなく、
「うん、判った」
最後にミケラの声が聞こえて二人は戻ってくる。
「旦那、姫様を日の下に長く晒すのも良くないからこれを使ってくんな」
チャトーラが虎次郎に日傘を渡す。
「承知」
それだけ言うと虎次郎は日傘の影にミケラが隠れるように広げた。
それを見てチャトーラが僅かに笑う。
「兄ちゃん、置いてきたよ」
チャトーミが戻ってきた。
「お疲れ、じゃあ、始めようか」
チャトーラと武茶志がスタートラインに並ぶ。
「行きますわよ、よーいドン」
合図と供に武茶志は全速力で走り始めた。
速い速い、その走りは通常の人間の数倍速く、瞬く間に目的の木まで半分のところまで走ってしまう。
しかし、チャトーラはピクリとも動かない。
「何やってんだぼけ!」
「さっさと走るじゃん」
「四露死苦!」
小妖精達が一斉に罵倒する。
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