外伝1「さすらいの勇者1ー74」
それからレッドベルの瞬歩の練習が始まった。
素早く走っては止まるの繰り返しなのだが、レッドベルは愚直にそれを繰り返す。
時折、虎次郎が何かアドバイスのような事を言っているようだったが、それは武茶士達の方まで聞こえてこなかった。
聞こえるのはレッドベルの「はい、師匠」だけだった。
「う~ん、飽きた」
早々にキマシは飽きて別の場所の方に歩きだし、ギリもその後を追っていった。
「さて、俺もどうするかな?」
無茶士も虎次郎がレッドベルにかかりきりになり手持ち無沙汰になっていた。
最初はレッドベルの練習を見ていたが、キマシ同様だんだん飽きてきたのだ。
「無茶士、暇でしたらボクと練習しませんか?」
そこへヒットが声をかけてきた。
「暇を持て余していたから助かる」
とヒットの提案に乗る。
「あっ、でも俺は格闘技やった事がないな」
ヒットは格闘家なので、流石に剣を使うわけにはい。
無茶士はヒットに合わせて素手で相手をしようと思ったが、前世では文化系で格闘技など無縁の生活を送り、こちらに来てからはもっぱら剣の修行しかしていない。
格闘技などまるで無縁なのだ。
「それならボクが教えますよ」
「それじゃあ、頼むか」
二人はレッドベル達から離れた場所に移動した。
レッドベルの近くにいると、レッドベルの事が気になって身が入らないと無茶士からの提案だった。
「この辺りでどうです?」
「いいなじゃないかな」
ここならレッドベルの練習の音は聞こえないし、背中を向けてしまえば姿も見えない。
「それでは始めましょうか」
最初は受け身の練習からだった。
「受け身が出来ないと、投げられた時にケガをしますからね」
ヒットの説明に、
「そうなんだ」
と思いつつ、無茶士はヒットの指導に従った。
前転しての受け身、右へ倒れた時の受け身、左へ倒れた時の受け身、後ろへ倒れた時の受け身、様々の受け身をした後、
「まだ形にはなっていませんけど、いきなり上手になるものではないのでおいおい慣れていきましょう」
それから基本的な型を一通り習ってから組み手に入る。
「無茶士には結界があるので、無茶しても大丈夫でしょう。それに下手な理屈を並べるより身体で覚えた方が早い事もありますから」
ニコニコ笑いながらかなり無茶苦茶な事を言う。
「確かに理屈を言われても判らないし、身体で覚えた方が性に合っているかな」
こちらの世界に来てから、もっぱら実戦形式で叩き込まれてきたのでその方が身体に馴染んでしまったいたのだ。
それに何より時間が無い。
魔獣がいつ襲ってくるか判らないのだ。
今は後方待機のチェン隊にいつ出動命令が下るかも判らない。
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