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外伝1「さすらいの勇者1ー73」

「そこまで」

 虎次郎が止めに入った。

「え~っ、まだ何にも戦ってないのに」

 レッドベルが不満そうに口を尖らせる。

「今のでお前の実力は判った」

 たった一度、無茶士と剣を交えただけなのに、虎次郎はレッドベルの実力を見抜いたと言う。

「こっちへ来い」

 虎次郎はレッドベルを呼び寄せる。

「は~い」

 素直に側まで来たレッドベルの身体を、虎次郎はいきなりベタベタと触り始めた。

「ちょ、ちょっと、それはダメですよ虎次郎」

 無茶士が止めに入った。

「何故だ、俺はこいつの肉付きを知りたいだけだぞ」

 確かに、虎次郎の性格からしてレッドベルによこしな事をしようという気は無いだろう。

「それでもダメです、前に俺がいた世界では相手の同意もなく身体に触るのは、セクハラと言って犯罪行為ですから」

 無茶士がそう言うと、

「わたしは構わないぞ、それでさっきのビュ~~ンを教えてくれるなら」

 忘れていた、レッドベルそんな性格だったという事を。

 とは言え本人がいいと言っている以上、それ以上は言えず引き下がる。

 虎次郎が服の上からレッドベルの足を確かめる様子を見ながら、無茶士は無邪気な妹を心配する兄のような気持ちになる。

「もしかして、昨日サビエラさんが怒ったのもこんな気持ちからだったのかな?」

 兎に角、レッドベルは純粋で無邪気すぎる。

 純粋すぎる故に周りが見えなくなってしまうのだ。

 その危うさが、側で見ているとつい心配になってしまう。

「仕方ない、ここに居る間は保護者の役目を引き受けるか」

 損な役回りだなと溜め息をつく無茶士。



「これならいいだろう、筋肉はしっかり付いている上に柔らかい。筋肉が無いと話にならぬが、硬い筋肉でも瞬歩は無理だからな」

 レッドベルの足を触っていた虎次郎がようやくレッドベルから離れ説明する。

「じゃあ、さっきのビュ~~ンを教えてくれるのか?」

「ああ、但し厳しいぞ」

「大丈夫だ、体力には自信があるから」

 さっきの話を聞いて、レッドベルは並のしごきなどものともしない精神力と体力はあるのは判る。

 それに、虎次郎は教えるのが上手なのだ。

 剣の素人だった無茶士が虎次郎となんとか試合の形になっているのも、虎次郎の指導のたまものだった。

 それ故に王都の衛兵にも「先生」と呼ばれ、慕われている。

「もしかして化けるかもな」

 無茶士はそんな予感がした。


                     (Copyright2024-© 入沙界南兎(いさかなんと))

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