外伝1「さすらいの勇者1ー68」
「虎次郎、わたし達が食べてもいいよね?」
飼い猫が下僕におねだりするような目をしながら、キマシは下から虎次郎の顔を見上げるのだった。
「うっ、ううっ・・・食べて良い」
しばし唸った後、何かを吹っ切るように顔を背けて虎次郎はキマシ達におひつの中身を食べる許可を与えたのだった。
「やった、ありがとう虎次郎」
無邪気に喜ぶキマシ。
「いつも悪いね」
ギリは虎次郎に軽く頭を下げる。
実はキマシは、どうねだれば良いか判っている確信犯なのだ。
毎度毎度同じ手でねだるというのも、流石に気が引けてきたのだが、当のキマシの方はそれをなんとも思ってもいない。
「虎次郎速く、お皿に盛って」
当たり前のように皿を出す。
その皿に、無言でおひつの中身を盛り付ける虎次郎。
「お前も出せ」
ギリにも皿を出すように言われ、
「ちょっと悪いと思うから」
断ろうとしたが、
「かまわぬ」
とまで言われ、
「それじゃ」
虎次郎はギリの出した皿に、おひつの中身を全て盛り付けてしまう。
「それじゃ、虎次郎達の食べる分が」
流石にまずいと思ったギリは、
「キマシ、ちょっと・・・」
横にいるはずのキマシの方を向くと、キマシの姿はなかった。
「どこ行っちゃったのよ」
姿を探すと、皿を抱えたキマシが戻ってくるのを見つける。
「ギリの分も取ってきたよ」
キマシの抱えている皿の上には大量の肉が乗っていた。
にまっと笑うキマシ。
「全然悪いなんて思ってない」
ちょっと頭が痛くなるが、
「ギリ、食べないの?」
見れば既にギリの皿の上のご飯に取ってきた肉が乗せられていた。
「こんな時ばかり手際が良いんだから」
ギリは溜め息をつくと、
「食べる、食べるに決まってるでしょ」
切り替え開き直る。
「それじゃあ」
「頂きます」
二人とも一口食べる。
「美味しい、知っている食べ物とまるで違う美味しさで」
キマシはほくほくした顔で食べる、
「忍びの里に行った時にごちそうになったのとは又違った美味しさだ」
ギリは忍びの里に任務で行った事があり、その時にごちそうになったのはご飯に魚や野菜の煮付け、変わった味の薄茶色のスープだった。
「味の濃い肉とも相性が良いんだ」
いつの間にかギリも食べる手が止まらなくなっていた。
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