外伝1「さすらいの勇者1ー67」
「無茶士、これを食え」
武茶士達が料理を取り終わった頃、虎次郎が食堂にやって来て、無茶士におひつを差し出す。
蓋をされたおひつから僅かに漂うのは炊きたてのご飯の香り。
「いいんですか?」
虎次郎は無言で頷く。
「ありがとう、ありがとうございます」
ご飯大好きの無茶士は涙ぐみながら虎次郎にお礼を言うと、虎次郎からおひつを受け取ると、
「それでは遠慮なく」
無茶士はおひつの蓋を開けた。
炊きたてのご飯の香りが鼻腔を直撃した。
「くぅぅ、たまんねえ」
早速、しゃもじですくい皿の上に盛り、取ってきた肉料理を上に乗せると、
「昨日食べた時、絶対にご飯に合うと思っていたんですよ」
一口食べる。
「美味い、思っていた以上に美味い」
あまりにも美味しすぎて、涙が出てきてしまう。
「無茶士、それはそんなに美味しいのか?」
レッドベルが興味津々の目で見ている。
「美味い、滅茶苦茶美味いぞ」
無茶士は忘れていたのだ、その手の言葉をレッドベルに言ってはいけない事を。
「わたしにも一口くれ」
と言って皿を出す。
当然こうなる。
「一口だけだぞ、いいな」
しまったと思いながらも、一口くらいならと、一口分をおひつからすくうとレッドベルの差し出している皿の上に乗せ、更にご飯の上に肉を一切れ乗せた。
「それと一緒に食べるんだぞ」
「うん」
レッドベルは嬉しそうに返事をすると、一口で食べてしまう。
「モグモグモグ・・・何これ、本当に美味しい!」
驚くの声を上げるレッドベル。
「下の白い奴、口に入れた時は殆ど味がしなかったのに噛んでお肉の味が広がった途端まろやかな味になった」
目を丸くして驚きを表現していた。
これがレッドベルが米の味に目覚めた瞬間だった。
「おかわり!」
無茶士に皿を突きつける。
「一口だけって言ったじゃないか」
無茶士が怒っても、
「おかわり!おかわり!おかわり!」
まるで聞く気は無い。
こうなったレッドベルは手に負えないのは、短い付き合いであるが無茶士は身に染みていたので、
「わかった、わかった」
仕方なしにレッドベルの皿にご飯を少しよそる。
「え~~~っ、それだけ?」
めちゃめちゃ不満そうなレッドベルの顔を見て、無茶士は皿にご飯を更に盛った。
結局、何度も「もう少し」と言われ、レッドベルの皿におひつの中身半分盛る羽目になった上、無茶士が持ってきた肉も全部取られてしまった。
「いっただきます」
満面の笑みでむしゃぶりつくレッドベル。
「いいな、いいな」
「あたし達もそれ食べてみたい」
無茶士とレッドベルのやりとりを隣で見ていたギリとキマシが、自分たちにも食わせろと言い出す。
「これは虎次郎の分だからダメだよ」
残り半分となったおひつの中身を、これ以上出すのは流石に気が引ける。
「虎次郎の分か・・・」
といいつつ、にやっと笑うキマシ。
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