外伝1「さすらいの勇者1ー65」
「そうなったら俺がなんとかする、無茶士は迷う事無く走れ」
椅子に座り興味が無さそうに目をつぶっていた虎次郎が、ぼそっと呟く。
「虎次郎ありがとうございます」
虎次郎が味方してくれればこれほど心強い事はない。
「ところで虎次郎、いつまでこの部屋にいるんですか?」
無茶士の言葉に虎次郎は、
「えっ?」
と言う顔をする。
「そろそろ自分の部屋に戻った方が良かろう」
ドンに言われても動こうとしないので、
「同室の方が心配しますよ、お部屋に戻った方が良いですよ」
とサンチョに言われ、諦めたようにがっくりと肩を落として虎次郎は部屋を出て行った。
「どうしたんでしょうね虎次郎?」
「何か様子が変でしたよね」
無茶士とサンチョが顔を見合わせて、虎次郎の様子が変だったのを心配する。
「同室の奴と何かあったのかのう?」
「虎次郎はそんな事気にするような性格じゃないですよ」
「そうですよね、何があっても我関せずの方ですからね」
訳も判らず、余計に心配になる無茶士。
「あやつは誰と同室なんじゃ」
ドンに聞かれサンチョが、
「確かチェン隊長と同じ部屋と伺っています」
「なるほど、判った」
ドンが手をぽんと叩く。
「何かご存じなのですか旦那様」
「おおよ、チェンの奴はいびきが凄くてな、うるさくて寝られたもんじゃないぞ。それにあやつは一旦寝たらなかなか目を開けよらん。わしも随分酷い目に合ったぞ」
ドンの説明に無茶士とサンチョは納得した。
「俺、虎次郎を呼んできます。ベッドの空きはあるから」
無茶士が部屋を飛び出し、しばらくしてから虎次郎を連れて帰ってきただった。
朝、武茶士達が目覚めた時には既に虎次郎の姿はなかった。
「虎次郎、起きるの早いな」
無茶士は感心した。
転生する前は一時間の電車通勤だったので、平日は六時半には家を出ていたのだ。
こちらに来て始めた倉庫の仕事は、割り振られた仕事をこなせれば何時に来ようが何時に帰ろうが構わなかったので楽だったが、無茶士は生真面目に朝早く出かけていた。
なので朝早く起きるのは苦にならない方なのだが、その自分より早く起きて出かけた虎次郎に驚くしかなかったのだ。
「食堂に行けばいるんじゃないですか?」
サンチョの案が採用され、武茶士達は食堂に向かう事にする。
途中でヒットと出会ったので、合流して食堂の入り口まで来ると、
「これ、凄く美味しい」
聞き覚えのある声が食堂の中から聞こえてきた。
「やっぱり」
食堂の真ん中で、ギリやキマシと一緒になってレッドベルが食事をしていたのだ。
「なんでお前がここに居るんだよ?」
無茶士に聞かれ、
「友達と食事をしに来ただけだ」
友達とはギリとキマシの事。
「自分の隊はどうした?お前は隊長なんだろ?」
「昨日、隊に戻ってわたしに友達が出来たと言ったら、隊のみんなが「折角出来た友達だから、一緒に朝食を食べた方が良いですよ」と奨めてくれたから、ギリとキマシと一緒に食べに来た」
本当に嬉しそうに笑うレッドベルの顔を見たら、無茶士はそれ以上何も言えなくなってしまう。
「まあいいか、騒いでみんなに迷惑かけるなよ」
「うん判った」
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