外伝1「さすらいの勇者1ー64」
武茶士達もサビエラ達魔法道具研究所の面々に別れを告げ、隊へと戻った。
「バカども、今までどこほっつき歩いていた!」
帰るなり隊長のチェンから雷が落ちる。
当然だろう、お昼に出たきり連絡もしないで夕方まで帰ってこなかったのだから。
そのまま、夕食抜きで居残り特訓させられる羽目になり、
「どぅあ、づかれだ・・・腹減った」
部屋に戻るなりベッドに倒れ込む無茶士。
「お疲れ様です、お水をどうぞ」
サンチョが水の入ったコップを差し出す。
「ありがとう」
受け取ると無茶士は一気に飲み干した。
「ぷはぁ、少しは生き返る」
「もう一杯要りますか?」
にこやかに笑うサンチョに、
「ありがとう、でもこれで充分だよ」
礼を言ってから、空のコップを返す。
「いいかい?」
ノックと共に、部屋の外から声がした。
「どなたです?」
サンチョが素早く入り口まで移動し、ドアを開ける。
入り口の外には食堂のおばちゃんが、白い布をかぶせたお盆を持って立っていた。
「夕食食べてないだろ、夜食の差し入れに来たよ」
おばちゃんは入り口から無茶士に声をかける。
無茶士はベッドから起き上がると、入り口まで歩き盆を受け取った。
「わざわざありがとうございます」
頭を下げると、
「礼ならチェンに言いな、あの馬鹿たれに頼まれて持ってきただけだから」
「隊長に・・・」
「じゃ、しっかりと食べて明日も頑張りなよ。それから、そのお盆は明日にでも食堂に持ってきておくれよ」
おばちゃんは手を振って廊下の向こうへと去って行った。
「おれ、この世界に来てから助けられているばかりだ」
最初はミケラ達に助けられ、小妖精達に仕事を紹介して貰い、サビエラにはマオの面倒を見て貰っている。
「いいんじゃないですか、人なんて助け助けられて生きているもんですよ」
「そうじゃぞ、助けられたのならそれをいつか倍にして返せば良いのじゃ。今はお主の助ける番が来ていないだけじゃと思え」
ぶっきらぼうだが優しい言葉に、無茶士はぐっとくる。
「そうですね、俺が助ける番になったら全力で助けますよ・・・そうだ、あれだ」
無茶士はタマーリンがサビエラに渡した指輪の話をした。
「防御魔法の指輪ですか?」
「サビエラとは昼間、タマーリンを探しに来たあの娘の事か?」
「はい、彼女は魔法道具研究所の関係者で新装備の設置に来ているんです」
無茶士は新装備が何かについては省いた。
「技術者か・・・今回は厳しい戦いになりそうじゃからな、技術者の所まで魔獣が行ってしまうかもしれんな」
ドンが縁起でも無い事を言う。
「や、やめて下さいよ、縁起でも無い」
無茶士は焦る。
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