外伝1「さすらいの勇者1ー61」
「でもさ、あたしが思うのに本当に凄いのはサビエラさんだと思う」
ギリはサビエラを慕う目で見つめる。
「タマーリンさんみたいに凄い魔法使うわけじゃないし、無茶士みたいに勇者でもないのに、砦の指令や副司令に向かって「クソ爺」って言えないよ普通」
「優しいお姉さんて感じなのに、あれは凄かったね」
キマシもうんうんと頷く。
「ジークおじさんて、一介の兵士から将軍まで上り詰めた猛者だよ、あの人の一喝で目の前に正座だもんね。凄いよ」
「それだけベルの事を心配して怒ってくれたんじゃない?」
「そ、そうかな?」
「きっとそうだよ、他人の為に怒れる人いいな、憧れるな。わたし、こんな性格だから笑って誤魔化とかで逃げちゃうもん」
キマシは憧れるようにサビエラを見る。
「わたしはあんなお姉さんが欲しいな。わたし一人っ子だし、守ってくれるお姉さんに憧れる」
「あっ、いいねそれ」
「あたしも一人っ子だから、あんなお姉さんいいなと思う」
こうしてサビエラの知らない所で、サビエラの評価は上がっていくのであった。
「無茶士、いい事を教えて差し上げますわよ」
席に戻ったタマーリンは隣の無茶士に囁く。
「いい事って何ですか?」
聞きたくないという表情をしながら返事をする無茶士。
「いつも大人しい子が怒るととても怖いのよ、だからあなたもサビエラを怒らせるような事をしちゃダメよ」
と言ってクックックックッと笑うタマーリン。
無茶士はゴクッと唾を飲み込むと、
「判っていますよ、あれを見たら怒らせたらまずいくらい判ります」
どう見ても偉そうなジークに怒鳴りつけた上、正座させて延々とお説教を食らわす姿を見たら怒らせてはいけないというのは誰でも判る。
「うふふふ、でもあの子があんなに怒ったのは初めてなのよ。それだけレッドベルという子が気に入ったのかもしれないわね」
「そうなんですか」
よく判らなかったので、無茶士は曖昧な返事を返した。
「知らない子のためにあんなに怒れるんだ」
と無茶士の中でもサビエラの評価は上がったのであった。
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