外伝1「さすらいの勇者1ー56」
「あらそうでしたの、気がつかなくてごめんなさいね」
タマーリンがしおらしく謝るが、無茶士は、
「こいつ、何か企んでる」
と思った予感的中。
「最強勇者がダメなら、異世界からの転生者ならいいのかしら?」
「な、なぁにぃぃぃ!貴様、異世界から転生して来たのか!」
ジークが食い付いてきた。
「ずるいぞ、最強勇者だけならともかく、異世界からの転生者とか・・・それ、俺にくれ」
無茶苦茶なことを言い始める。
「ジークおじさんずるい、だったわたしは最強勇者貰うから」
「おお、持ってけ」
「やったぁ!」
無邪気に喜ぶレッドベル。
「さあ寄越せ」
「頂戴」
暑苦しい程の圧をかけて迫るジークとレッドベル。
「二人ともいい加減にしなさい」
クロウベルがジークとレッドベルの襟首を掴んで無茶士から引き剥がす。
「無茶士君が困っているじゃないか、二人とも落ち着きなさい」
「レッドベルのお父さん、助かりました」
無茶士はクロウベルにお礼を言う。
「いえいえ、当然のことをしたまでの事、礼を言われる程でもありませんから。それからわたしのことはクロウベルと呼んで下さい」
「判りました、クロウベルさん」
無理矢理引き剥がされたジークとレッドベルはむくれた顔で、
「何をするんだクロウベル、俺はその男と大切な話をしていたんだぞ」
「そうだぞお父様、わたしも無茶士と大事な話をしていたんだ」
しかし、クロウベルは二人の苦情など意にも介さないという表情で二人を見る。
「二人ともバカですか?」
「何を、俺のどこがバカだと言うのだ!」
「わたしだってバカじゃないぞ、隊では隊長は脳筋ですねと誉められているんだから」
自慢するレッドベル。
脳筋は褒め言葉じゃないぞレッドベル。
クロウベルは溜め息をつくと、
「ジーク、お前はもうこの砦の指令として知られているんですよ。今更、異世界の転生者なんて名乗っても誰が信じるんですか?」
「えっと・・・それは・・・・・・だな」
ジークの目が泳ぐ。
「レッドベルもですよ、お前がいきなり最強勇者だと叫んだらララベルが納得すると思うのですか?」
ララベルという名前にレッドベルはギクッとする。
「お、お母様は・・・か、関係ありません・・・わ」
ララベルという名前が出た途端、レッドベルの挙動と言葉使いが変になる。
どうやら母親をかなり苦手としているようだ。
「いいですか、無茶士君がどうして異世界から転生してきたきちんと聞かないとダメですよ。そうすれば我々が、勇者として異世界の転生に出来る方法が判ると思うのですよ。そう思いませんか?」
「おお流石クロウベルだ、静かなる脳筋の二つ名を持つ俺の相棒だぜ」
「流石、わたしのお父様だ」
クロウベルの話にジークもレッドベルも目をキラキラさせる。
「さっ無茶士君、君はどうやってこの世界に転生してきたのか聞かせてくれたまえ」
無茶士はクロウベルの目を見た瞬間悟った、本気と書いてまじと呼ぶ目をしていたのだ。
「この人もジーク指令やレッドベルと同類じゃないかぁぁぁぁぁ!」
無茶士は心の中で絶叫し、隣でタマーリンが地面をバンバン叩きながら、
「く、苦しい」
と大笑いをしていた。
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