転生したら最強勇者になったが、住民の方が優秀だった件 その9
「運動会って何だ?」
チャトーラが聞き、チャトーミも頷く。
「そうね・・・走ったり、飛んだりして運動能力を競い合う大会ですわ」
「へーっ、面白そうじゃねえか」
「そうだね兄ちゃん、楽しそうだね」
チャトーラ、チャトーミ兄妹は賛同しる、元々、身体を動かす事が好きなのだ。
虎次郎は無反応、クロも話しについて行けずキョロキョロと周りを見回していた。
「走るの?私も?」
ミケラが聞く。
「いいえミケラ様、走るのは走るのが得意な方がやれば宜しいのですよ。例えばこの方達とか」
チャトーラとチャトーミを指差す。
「走りなら俺達に任せておけ」
チャトーラが力こぶを作り、
「走るのに力こぶ関係なくない?」
「足が勝負じゃん」
「四露死苦」
と小妖精達に突っ込みを入れられる。
「あたしは兄ちゃんより遅いけど、遠くまで走るのは兄ちゃんより長く走れるんだ」
チャトーミが得意げに話す。
「チャトーラが短距離選手で、チャトーミがマラソン選手か」
武茶志が呟くと、
「短距離・・・マラソン、何じゃそりゃ?」
チャトーラが首を捻った。
「あっ、俺が元いた世界の走る競技の種目だよ」
武茶志が説明する。
「へ~っ、異世界にも走る競技ってあるんだ」
チャトーラは興味津々に聞く。
「有りますよ、他にも障害物を飛び越えたり、走った後に遠くまで飛ぶ競技とか有ります」
「面白そうじゃねぇか、後で話聞かせてくれよ」
「いいですよ」
「あたしもいい?あたしも聞きたい」
チャトーミが割って入ってきた。
「お二人とも仲が良いんですね」
「おうよ、二人っきりの家族だからな」
「父ちゃんも、母ちゃんも流行病であたし達が子供の頃死んじゃったから」
武茶志はなんと言っていいか判らず言葉が詰まる。
「そんなしんみりした顔すんなよ」
「昔は辛かったけど、今はあたし達幸せだから」
チャトーミが本当に幸せそうに笑い、武茶志にはその笑顔が眩しく見えた。
「それではどんな競技をするか決めましょう」
タマーリンが皆を集める。
「走るのはチャトーラに決まりとして、後は・・・勇者と言ったらやはり剣術でしょうか?虎次郎、お願い出来ます?」
問われて、
「承知」
と簡潔に答える。
「それでは後は・・・」
「はいはい、僕、飛ぶの得意です」
クロが手を上げる。
「それでは跳ぶのはクロにお願いしますね」
微妙にニュアンスがかみ合っていなかったが了承され、
「やった~!お姫様、見ていて下さいね」
クロは小躍りして喜び、ミケラにアピールする。
「これで三つ、少なすぎますわね。他に何か有りませんかしら」
「はーい」
ミケラが手を上げた。
「はいミケラ様」
「お絵描き」
「はい、お絵描き決定ですね」
即決だった。
「ええっ、お絵描きって勇者と何か関係あるんですか?」
武茶志が驚いて聞くと、
「ああん?」
タマーリンがゴミ虫を見るよう目で振り向く。
「ひぇぇ」
武茶志は小さな悲鳴を上げた。
さらに視線を感じて振り向くと、虎次郎が凄い形相で睨み付けている。
「武茶志さん、武茶志さん」
クロが武茶志を手招きする。
「やばいですよ、あの二人。お姫様大好きすぎて、下手な事言うと命に関わりますよ。特に虎次郎さんは問答無用で斬りかかってきますから」
クロと武茶志はそっと虎次郎の方を見る。
クロの話を聞いた後に虎次郎の形相を見て、武茶志は身の危険をはっきりと感じた。
「そ、そうですよね、お絵描き大切ですよね。ダンジョンで地図を描いたりとか重要ですよ、あはははは」
武茶志は白々しいくらいの大きな声で喜んでみせる。
タマーリンのゴミ虫を見るような目が天使の笑顔に変わり、背後からの殺気の籠もった気配も消えて武茶志はホッとする。
(Copyright2022-© 入沙界 南兎)