外伝1「さすらいの勇者1ー49」
「おお、ベルか?こんな所に何しに来た?」
「お父様がジークおじさんを司令室に連れてこいって言ったから、連れ戻しに来た」
あっけらかんと言い放つレッドベル。
「ほほ、と言うことは腕尽くで、ということかなベル?」
「もちろん」
腕尽くと聞いて、逆に喜ぶレッドベル。
「よっしゃ!久しぶりにいっちょやるか、本気でかかって来いよベル」
「ジークおじさんこそ、手抜きしたら許さないんだから」
二人ともワクワク丸出しの顔で剣を構える。
「やめて~~~っ!」
二人が剣を振り上げた瞬間、簡易天幕の中からジェーンを先頭に技術者達が飛び出して来来た。
「止めて下さい、止めて下さい。こんなところで暴れらたら機材が壊れる」
二人を止めに入る。
「そ、そうか。悪かった」
ジークは直ぐに剣を鞘に収める。
実際、簡易天幕に入りきらない機材があちこちに積まれているたのだ。
下手に暴れれば壊してしまう危険がある、流石に指令である自分が加わって壊すわけにはいかない。
ジークはこの砦の指令、それを止める側なのだから。
「それはないよ、ジークおじさん。やろ、やろ」
しかし、レッドベルの方は止まらない。
「止めて下さい、止めて下さい」
技術者達がレッドベルを止めようとしたが、
「うるさ、わたしの邪魔をするな」
と剣を振り回し、技術者の一人に当たりそうになった。
「危ない」
その剣を無茶士が結界で受け止める。
「な、何今の?」
盾など持っていないのに、盾で受け止められたような感触に驚くレッドベル。
「人のいる所で剣を振り回したら危ないじゃないか」
怒る無茶士だが、
「今の何?今の何?」
レッドベルは聞いてはいなかった。
「あなたケットシーね・・・判った、タレントを使ったんだ。どんなタレント?どんなタレント?」
「ちょっと人の話を聞けよ」
と怒るが、
「教えてくれないんだ」
と頬を膨らませるレッドベル。
「教えてくれないならこうだ」
いきなり無茶士に斬りかかってくる。
「おっと」
それを難なく無茶士は避けた。
「あ~~っ、避けた!ならこうだ」
更に鋭い踏み込みでレッドベルは斬りかかって来た。
それも無茶士に避けられて空を切る。
「うぐうギリギリ」
歯ぎしりして唸るレッドベル。
「それならこうよ、それそれ」
激しく鋭い剣が次々と無茶士を襲った。
その尽くが無茶士に避けられ、虚しく空を切って終わる。
「太刀筋は鋭いけど、虎次郎の剣に比べたらまるで遅い」
お昼前に虎次郎とかなり本気の練習をしたばかりなので、目が虎次郎の剣速になれてしまっていた。
レッドベルの剣も鋭い、しかし、剣豪のタレントを持つ虎次郎の剣に比べれば遠く及ばないのだ。
「ぜぇぜぇぜぇ」
肩で息を切るレッドベルに比べ、武茶士は息ひとつ乱れていない。
「いいもん、いいもん。もうわたし本気になっちゃったから、わたしを本気にしたあなたが悪いんだから・・・わたし悪くないもん」
レッドベルは剣を上段に構えて気合いを貯める。
「よせ、それはダメだ」
レッドベルが何をしようとしているのか気がついたジークが止めたが、既に遅し。
「真空斬」
剣が素早く振り下ろされ、真空の刃が無茶士を目指して飛ぶ。
危険を結界が察知し、無茶士は躊躇わず結界の反応した方向に力を込める。
目に見えない真空の刃は弾かれて霧散した。
「タマーリンの魔法や、虎次郎の斬檄に比べたら大したことないな」
比べる相手を間違っているのだが、それしか比べる相手が居ない無茶士に合掌。
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