外伝1「さすらいの勇者1ー43」
「お疲れ様です」
走り去ろうとしている副官にサビエラは声をかけた。
自分もモモエルに振り回されているので、なんとなく親近感が湧いたのだ。
副官は足を止めサビエラを見ると軽く会釈してから走り去っていった。
「これからどうしましょうか?」
無茶士が横に来て尋ねてくる。
キマシが魔法の練習に夢中になり、ギリはそれを応援している。
タマーリンとシルフィーナはその横であれこれ助言を与え、楽しそうだ。
魔法の才能のないサビエラは魔法にはあまり興味がなく、結界以外の魔法を使えない無茶士も似たり寄ったりだった。
「あっ、いけない。わたし戻らないと」
今、広場では魔法投影機の設置の最中なのだ。
それを放り出して無茶士と共にここへ来てしまっていた。
サビエラは技術関係の事はさっぱり判らないので、設置自体に必要とはされていないのだが、砦の関係者との交渉がサビエラの役目だったので本当はいなければいけない。
サビエラのいない間、に砦の関係者から話が来ていないとも限らない。
「俺、送りますよ」
「は、はい。お願いします」
無茶士がサビエラの横に立つ。
どちらかともなく手を繫ぐ二人。
そのまま寄り添いながらその場を離れていく。
「やれば出来るじゃない」
二人の後ろ姿をタマーリンは微笑みながら見送った。
幸せいっぱいの二人は、周りの目など一切気にする事もなく寄り添いながら、そのまま時間が止まって欲しいとばかりにゆっくりと歩き、二人の時間を楽しんでいた。
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