外伝1「さすらいの勇者1ー38」
飛行型の魔獣を倒す間に船はかなり前進しており、望遠鏡を使わなくても魔獣を見る事が出来た。
谷の奥の方まで黒い獣で埋め尽くされ、それが谷の出口を目指して猛進している。
「これが全部、谷を抜けたら・・・」
砦などひとたまりもなく飲み込まれるだろう。
「無茶士、失礼ですわよ。わたくしがいるのですから一匹たりとも通しませんわ」
不遜とも取られる言葉を発しながら、タマーリンが微笑む。
「火球」
タマーリンが手を一振りしただけで、タマーリンの前方に十個の火球が生じた。
「お行きなさい」
タマーリンの命による、魔獣目掛けて火球は宙を飛ぶ。
「あっ、そおれ」
火球が船から離れると、タマーリンが再び手を振り、火球は次々と分かれ無数の火球の群れとなる。
その数、百。
しかも火球の色が赤から徐々に白へと変わっていく。
炎はの色は赤より白の方が温度が高く、赤白く輝く火球の群れは容赦なく魔獣達の頭上から降り注いぐ。
全ての火球が消えた後には、あれほどいた魔獣の姿はどこにもなかった。
後に残ったのは溶けて煮え立つ溶岩と化した地上のみ。
あまりの事に、タマーリン本人とシルフィーナ以外の船の搭乗者は唖然とする。
「熱波が来ます緊急離脱、急ぎなさい!死にたくなければ大急ぎで!」
そう高熱で熱せられた空気は膨張し、一気に膨らみ暴風となって襲いかかってくるのだ。
シルフィーナの怒号と共に船は急旋回と急上昇をする。
「来る、伏せなさい」
叫ぶと同時にシルフィーナは魔法障壁を張って船体を守る。
その後、直ぐに船は熱波に包まれ激しく揺れた。
シルフィーナの張った障壁に守られ、誰一人船から振り落とされる事はなかったが、揺れを完全に急襲出来ず、船は激しく揺れる。
魔術師達は船を落とさないようにするのが精一杯だった。
「虹輝障壁」
その声と共に揺れが唐突に収まる。
シルフィーナの張った障壁の外側を虹色に輝く光の障壁が包み込み、荒れ狂う暴風そのもから船体を守ってくれていた。
「危ないところでしたわね」
タマーリンが両手を広げたままニコッと微笑む。
「助かったわ、あのままじゃ下手したら地上に落ちていたかも」
浮遊魔法を使っている魔術師の顔を一回り見てから、シルフィーナがタマーリンに礼を言う。
魔術師達は誰もが消耗しきった顔をしていた。
「あなた達、彼らにこれを食べさせてきて」
シルフィーナは自分の張った魔法障壁を解除すると、腰のポーチから飴を四つ取り出す。
「飴?」
ギリが「何故ここで飴?」という顔をする。
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