1話「泉の妖精 その3」
「なんだって、あたい達のどこが妖精じゃないって言うんだ」
「ふざけた事言うなじゃん、その目玉えぐるじゃん」
「四露死苦!」
三人はチャトーラの頭の上を飛び回りながらキーキーと騒ぐ。
「うっせー」
チャトーラは追い払おうと手を振り回すが妖精達はその手を巧みに躱す。
「こら、兄ちゃんを虐めるな」
チャトーミを一緒になって追い払おうとしたが、その手にかすりもしない。
「のろまなあんた達に、あたい達が捕まるわけないだろ」
ミミがチャトーラ兄妹の手をかわしながらあっかんべーをする。
「のろまじゃん、まぬけじゃん」
シルゥはお尻ペンペンし、リーは変顔をして挑発した。
「旦那、助けてくれぇ」
チャトーラは諦めて虎次郎に助けを求めた。
だが無視される。
「助けてよぉ」
チャトーミも助けを求めたが、これも完全無視される。
「姫様、助けてぇぇぇ」
虎次郎が動かないので今度はミケラに助けを求めた。
「虎次郎、助けてあげて」
「はっ、直ちに」
即答であった。
背中に背負う刀に手を掛けて虎次郎が動く。
「おっ、やろうって言うの?」
「どっからでもかかって来るじゃん」
「四露死苦」
ミミは空中で回し蹴りをし、シルゥはボクシングの構えからジャブを繰り出す。
リーはどこから来いとばかりに空中で仁王立ちをして待った。
「ふっ」
そんな小妖精達を虎次郎は僅かばかりに鼻で笑い、
「はっ!」
と言うかけ声が響き、声が終わった時には既にゆっくりと刀を鞘に戻すところだった。
抜いたところも刀がどう動いたかさえ、妖精達どころかチャトーラ、チャトーミ兄妹にも見えなかった。
ミケラは何が起こったかすら判らず、キョトンとした目で虎次郎を見る。
「な、何よ。ただの脅しじゃんか」
「そうじゃん、ただのはったりじゃん」
「四露死苦」
妖精達が囃し立てているところへ、一枚の葉っぱが風に吹かれて飛んできた。
チーン
刀が鞘に収まり鍔が鳴った瞬間、フワッと一枚だった葉っぱが三枚に分かれた。
向こう側が透けて見えるほどに薄くなった葉っぱは、妖精達の目前を通り過ぎると風に吹かれ草原の彼方へと飛んで行ってしまう。
「飛んでいる羽虫など、落とすのは容易い」
虎次郎が静かに呟く。
「ひえぇぇぇぇぇ」
妖精達は抱き合い震えあがった。
「で、でも、あいつ結構強そうじゃない?」
震える声でミミが仲間と相談する。
「そうじゃん、あいつならあのクソガエルを追い払ってくれるじゃん」
「四露死苦」
三人は決意を決めて頷き合う、
「何か困ってるの?」
その声に、妖精達が凍り付いた。
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2023/09/21 修正
少しづつ、修正していきます。
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