外伝1「さすらいの勇者1ー27」
素早く立ち上がる無茶士。
瞬歩の範囲内だが、投げた虎次郎も投げから直ぐには瞬歩に移れずハリセンを構え直すのが精一杯だった。
「焦るな俺」
無茶士は一呼吸入れてなんとか落ち着きを取り戻す。
「やっぱ虎次郎は強いな、勝てる気がまるでしない・・・」
冷静に成れば成る程、自分と虎次郎の実力差を思い知らされるだけだった。
「おっと、諦めたらそこで試合終了だよな」
子供頃、友達から借りて夢中で呼んだバスケット漫画のフレーズを思い出す。
「借りたと言うよりも、あいつの死んだお兄さんが好きだった漫画を捨てるに捨てられずに押しつけられたんだけど。ひろし、元気にしているかな?」
長年会っていない友達の事を思い出す。
「おいっ、真剣にやれ」
虎次郎に声をかけられ、はっとして我に返る。
「戦いの最中に何を呆けている、ここが戦場なら死んでいるぞ」
「すみません」
虎次郎に頭を下げる。
「勝つ算段がついたらかかって来い」
虎次郎は自然体でハリセンを構え直す。
「虎次郎って、剣の事に成ると本当に真摯だよな」
普段は話すのがあまり得意ではないので苦労しているが、剣の事に成るとよく話すしアドバイスもくれる。
「今だって、勝とうと思ったら勝てたのにわざわざ声をかけてくれたし」
そんな虎次郎に応えようと無茶士は頭をフル回転させた。
「剣技や体術じゃまるで勝てる気がしない、俺が虎次郎より勝っているのは・・・防御に結界が使える事と、高くジャンプできることくらいか」
「跳んで上から斬りかかる?無理無理、足を止めないと避けられて返り討ちにあうだけ」
頭を振る無茶士。
「ちょっと待てよ、足を止めるか・・・やってみるか」
何かを思いついたようだ。
「お待たせしました」
「かまわぬ」
互いに構え直す。
「では行きます」
無茶士は再び気合いの入った声を出して上段から勢いよく切り込む。(七手)
先ほどより鋭い切り込みだったが、虎次郎は同じように無茶士のハリセンの軌道を逸らすと懐に入り無茶士を投げる。(八手)
「よし、予定通り」
投げられている間に無茶士はイメージを固めて結界に力を注ぎ変化させる。
大まかな形にしか出来ないが、今はそれで充分。
無茶士はボールをイメージしたのだ。
ボールが地面に激しく叩き付けられれば、
「反動で弾む」
虎次郎に叩きつけられた無茶士の身体は、狙い通り空中に高く跳ね上がる。
虎次郎は投げの後の硬直で動きが一瞬だが動けない。
「でぇぇぇぇぇぇい!」
空中で体勢を立て直した無茶士が虎次郎目掛けて剣を振り下ろす。(九手)
後書きです
久しぶりにバトルシーンを書いたので大変でした。
大技を何発も繰り出しながらの戦いじゃなくて、
基本、剣技だけのバトルなのでいかに見せるか考え込んでしまいます。
今週は何とかしのいだけど、これから戦闘シーンが増えていくので胃が痛い(笑)
ではまた来週(@^^)/~~~
(Copyright2023-© 入沙界南兎)