外伝1「さすらいの勇者1ー26」
「なかなかいい勝負をしますね」
「ねえねえ、今何手目?」
「そうだな、虎次郎相手にあそこまで動けるとは流石に勇者だな」
「ねえねえ、今何手目?」
「がはははは、流石じゃわい。よい男と知り合ったモノじゃな」
「そうですね旦那様、これを暁光と言うのでしょうね」
「だから、今何手目だって聞いてるでしょ!」
キマシがぶち切れた。
無茶士はじりじりと虎次郎との間合いを詰めていく。
迂闊な動きをすれば容赦なく虎次郎が切り込んでくるだろう。
虎次郎の瞬歩の間合いに既に入っているのだ。
それは虎次郎も同じだった。
迂闊に攻撃して結界で防がれれば、大技であればある程に隙が出来てしまう。
とは言え、小技では強化された結界を抜ける事が出来ない。
相手を崩して隙を作り、そこへ大技を打ち込むしかないのだ。
互いにフェイントを仕掛けるタイミングを見計らいながら、じりじりと動いていた。
二人の緊張は見ている周りにも伝わる。
騒いでいたキマシもいつの間にか沈黙し、息を飲み二人の動きに見入ってしまっていた。
沈黙が辺りを覆う。
風の音、木々や葉が風で擦れる音、森の奥から聞こえる鳥のさえずる声がやけに大きく聞こえる。
カァァァァ
カラスに似た鳥の声が唐突に響く。
その声を合図にして無茶士が動いた。
「でやぁぁぁぁぁ!」
裂帛の気合いと共に、上段から虎次郎の頭を打ち砕く勢いでハリセンが振り下ろされる。(五手)
虎次郎はそれを横手から自分のハリセンをぶつけて無茶士のハリセンの軌道をずらし、前へ踏み出すと無茶士の腕を絡み取り無茶士を投げた。(六手)
無茶士は地面い叩き付けられる寸前に結界をクッションのように広げ衝撃を吸収すると、そのまま地面を転がり虎次郎から離れる。
「ほほう、面白い動きをするじゃないか」
チェンが感心したように声を上げる。
「あのまま地面に叩き付けられていたら、動けなくなって終わってましたよね」
ヒットも面白そうに無茶士を見る。
「あれが結界という奴か?目に見えぬが虎次郎の攻撃をうまく防いでいるようじゃな」
「虎次郎さんの一発を食らったら、わたしならそれで動けなくなりますよ。無茶士の結界、なかなか便利ですね」
ドンとサンチョも無茶士が健闘しているのに感心する。
「面白い奴が入ってくれたなヒット」
「そうですね、ところで隊長、今ので六手なので隊長の負けですよ」
「そ、そうだったぁぁぁ!」
頭を抱えるチェン。
「俺のおやつが、俺のおやつが」
がっくりと肩を落とし、ブツブツと言い始める。
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