外伝1「さすらいの勇者1ー25」
「あんた達、いい加減まともに戦いなさいよ」
「そうよ、わたし達のおやつが掛かっているんだからきちんと戦ってよ」
ギリとキマシの目がかなり血走っていて、横にいるチェンやヒットは引き気味だ。
「どうします虎次郎、勝手に賭けの対象にしておいてあの言い草もないと思うんですが、きちんと戦わないとやばそうな気が。特にあの二人が」
今にも食いつきそうな目で睨んでいるギリとキマシの方を見る。
「うむ」
虎次郎はギリを吹き飛ばして機嫌を損なったときのことを思い出し、また機嫌を損ねるのもまずいと考え、
「ならば真剣にまみえよう」
ハリセンを構え直す。
「判りました」
無茶士はギリとキマシに向かって、
「判りました、今から真剣に戦いますから」
と大声を張り上げる。
「やった」
歓声を上げるキマシ。
「二十手ね、二十手で負けてね無茶士」
「何を言う、五手だ。五手であっさりと負けるのだぞ無茶士。これは隊長命令だ」
「ちょっと隊長、それずるい」
「そうだよ、ずるはダメだよ」
ギリとキマシがチェンに向かってキャンキャンと吠えまくる。
「そうだよ隊長、みんな公平にやらないとダメですよ」
止めに入るヒット。
「判った、俺が悪かった。無茶士も本気で戦って負けてくれ」
「無茶士頑張って下さい、ボクは十手で負けるに賭けているのでそこまで頑張ってくれればいいですから」
爽やかに笑うヒット、だが台無しだ。
「みんな俺の負け確定なのね」
苦笑いする無茶士。
「まっ、虎次郎相手に勝てるはずもないか」
溜め息交じりに呟く。
「戦う前から負けるなど考えていては、勝てるモノも勝てんぞ」
低い声で虎次郎が注意する。
「す、すみません」
話すのは得意ではない虎次郎だが、剣の事になるとはっきりとモノを言うようになる。
「では行きます」
気を取り直して無茶士もハリセンを構え直した。
「いざ!」
二人はかけ声を上げる。
先に動いたのは虎次郎だった。
瞬歩で無茶士の横を走り抜け、ハリセンで胴を払う。(一手)
無茶士は結界でそれを防ぐと同時に振り向くと、即座に虎次郎を追いかけ瞬歩の止まり際を目掛けてハリセンを振り下ろす。(二手)
まるで後ろに目があるかのように、虎次郎はハリセンを振って無茶士の攻撃を逸らし、そのまま身体を回転させ、体勢を崩した無茶士目掛けてハリセンを振るう。(三手)
咄嗟に無茶士は腕を上げ、腕に意識を集中させ結界の強度を上げ、虎次郎の攻撃を受け止める。
ハリセンを防がれるのとほぼ同時に、虎次郎は後ろに跳び、無茶士との距離を開けた(四手)
強化した結界の上から殴られたにも関わらず、腕が痺れ無茶士は追撃する事が出来ない。
「なんていう威力だ、結界を強化していなかったら腕の骨が砕かれていた」
虎次郎の斬檄の強さに舌を巻く。
「それだけ本気という事なんですね」
無理に追う事を止め、無茶士はハリセンを構え直すとじりじりと虎次郎との間合いあを詰めていく。
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