転生したら最強勇者になったが、住民の方が優秀だった件 その6
その頃、武茶志は木の上で寛いでいた。
ナップザックに入っていた食糧は昨日のお昼に尽き、何か食べる物は無いかと走り回って夕方になって泉を見つけたので、そこで一息入れ、泉の水で空きっ腹を満たした後、走り回った疲れが出てそのまま寝てしまったのだ。
お腹が空いて、ほぼ夜明けと同時に目が覚め、再び食べ物を求めてうろつくと、近くの林の木の上に木の実らしきモノを見つけた時は小躍りして喜んだ。
木から落ちて死んだ身としては、トラウマが無かったわけではなかったが、そこは最強勇者のタレント持ちであった。
最初は恐る恐る登ってみたが、身体がうそのように軽く瞬く間に木の実のあるところまで登れてしまった。
「うそぉ、勇者すげぇ」
再び勇者の能力に驚く事になった。
取りあえず、手近のみを一つ手に取ってかじる。
「うまぁぁぁぁ、なんだこの実!見た目は小粒のリンゴだけど味の方はシャリシャリとするマンゴだわ」
その後は夢中になって周りの木の実を取っては食べた。
「食った、食った・・・なんか、また眠くなってきた」
空腹で夕べはよく寝られなかったのでお腹が膨らんで眠気が襲ってきたのだ。
そのまま、木の上でお昼まで寝てしまう。
「ふぁぁぁぁ、よく寝た・・・おっとっとっ」
寝起きに伸びをして危うく木の上から落ちかける。
「そうだ木の上だった、寝ている間に良く落ちなかったな俺」
再び周りの木の実を頬張りお昼を済ませると、木の実をナップザックに詰め始める。
「これだけ取れば、しばらく何とかなるな」
ナップザックに詰め込めるだけ木の実を詰め込んで武茶志はホッとする。
それから木の上で一息入れ、ふと草原の方を見るとこの世界の住人らしき一行が草原を歩いているのが目に入った。
「ここに来て初めて会う人だ」
武茶志は大慌てで木を降りると、その一行に向かって走った。
「おーい」
大きな声を出し、手を振りながら走ってくる男を見て虎次郎が背中の刀の柄に手を掛けてミケラの前に立つ。
タマーリンもミケラの前に立ち、いつでも魔法が放てるように指を回し始め、チャトーラとチャトーミはミケラの両脇に立った。
「どうしましょう、どうしましょう」
クロはミケラの後ろでオロオロする。
「こんにちは、この世界の住人の方ですか?」
武茶志は臨戦態勢になっている一行に気軽に挨拶をする。
「何奴」
虎次郎が背中の刀を瞬時に抜き、武茶志に突きつけた。
「ひえええ」
武茶志は驚いて尻餅をつく。
「虎次郎、めっ!」
ミケラが虎次郎を怒った。
「道で『こんにちは』と言われたら『こんにちは』でしょ」
虎次郎は刀を持ったまましばらくオロオロしたが、諦めて刀を鞘に戻すと、
「こ、こんにちは」
と尻餅をつき倒れている武茶志に挨拶をする。
「虎次郎、えらいね」
とミケラに誉められ、虎次郎は尻尾をピンと立てフフンと言いながらチャトーラ達の周りを歩く。
ミケラは武茶志の側に来ると、
「こんにちは」
と挨拶した。
「まあ、ミケラ様偉いですわ」
タマーリンがミケラの頭を撫でる。
「えへへへへ」
と笑った後、タマーリンを見上げた。
「はいはい、旅人さんこんにちは」
と武茶志に優雅に挨拶をする。
その後にチャトーラ、チャトーミ、クロが挨拶した後、チャトーラが手を出して、
「大丈夫ですか、うちの旦那ちょっと手が早くてね。悪かったな」
と言いつつ、武茶志が起き上がるのを助ける。
「いえいえ、ありがとうございます。あっ、私は宮本武茶志と言います」
チャトーラの助けを借りて起き上がった武茶志は名乗る。
「あっ、俺はチャトーラだ。こっちは妹の」
「チャトーミだよ、宜しく」
チャトーミは武茶志に手を振る。
「ちょっとあなた達、ミケラ様を紹介するのが先でしょ」
「おっ、そうだった」
チャトーラとチャトーミはミケラに場を譲り、タマーリンがミケラの背中を押して前に出す。
「こちらはケットシー王国の末姫のミケラ様と申します」
「ミケラといい・・・も、申します」
ミケラはかしこまった挨拶は苦手なので、つっかえながら挨拶を何とか言い終えると、ホッとしてタマーリンを見上げる。
「良く出来ましたわミケラ様」
タマーリンは抱きついて頭を撫でたいのを我慢して微笑む。
「こ、こ、こ、これはご丁寧にあ、あ、ありがとうございましゅ、わ、わたくしは・・・宮本武茶志とも、申しましゅ。ゆ、勇者というタレントを貰ってます」
目の前の小さい子がお姫様と聞いて武茶志は完全に舞い上がってしまい、うわずった声で挨拶をする。
「うふふふ、面白い方。わたくしはタマーリン、宮廷魔術師をしています」
黒く長い髪を掻き上げタマーリンが艶やかに微笑む。
その笑顔が眩しくて武茶志は視線を下に逸らしたが、タマーリンの見事な目が胸に釘付けになる。
タマーリンは僅かに怪しい笑みを浮かべる。
「拙者は佐々木虎次郎」
虎次郎がぼそっと呟く。
「そして僕はクロと言います、こんな姿ですが神龍やってます」
唯一、ケットシーでは無く真っ黒以外は背の高い人間の少年にしか見えないクロがそう挨拶した。
「し、神龍と言うと七つの玉を集めるとなんでも願いを叶えてくれると言うあの?」
「いいえ違います、僕にはそんな力は無いです。僕に出来るのはせいぜい雨を降らして国をまるごと水の底に沈めるとか、雷の嵐で国を焦土にする程度ですから」
クロはホホホと笑い、武茶志はドン引きした。
「こ、この人危なくないですか?」
武茶志はチャトーラに聞いたが、
「クロだから大丈夫だ」
「そうだね兄ちゃん、クロだもん」
「そうですわ、クロですもの問題ありませんわ」
まるで相手にされなかった。
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