外伝1「さすらいの勇者1ー22」
「みんな一息ついたみたいだし、どうです虎次郎、手が空いているなら俺とやりませんか?」
無茶士の申し出に、
「どうしてもと言うなら、仕方ない、付き合ってやろう」
虎次郎は「お前がどうしてもと言うから付き合うのだぞ」という部分を強調しながら、頷く。
しかし、虎次郎の尻尾はピーンと立っていた。
猫というのは尻尾で感情を表すモノなのだ。
嬉しい時に猫は尻尾をピーンと立てるのだが、ケットシーもそれは同じなのである。
つまり虎次郎は今めちゃくちゃ喜んでいるのだ。
しかし、顔はいつもの通りクールを装っている。
ケットシーの習性を知っている者達は、必死に笑いを堪えていた。
「これを使え」
虎次郎がハリセンを投げて寄越す。
「ちょ、ちょっと。いま、これをどこから出したんですか?」
「必要な時、必要な場所に現れる。ハリセンとはそう言うモノだろう?」
変な事を聞くなと言う顔で虎次郎に睨まれる。
「関西のお笑いのノリかよ」
とツッコミを入れつつ、それ以上言い返す気力も無くなったので、無茶士はハリセンを手にして虎次郎の後に従い訓練場に向かった。
「では、いざ」
互いに向き合い、無茶士と虎次郎がハリセンを手にして構える。
「おっ、虎次郎と無茶士がやるのか」
周りで寛いでいた班の仲間が野次馬よろしく集まり出す。
「何手で無茶士が負けるか賭けるか?俺は五手だな」
初めから無茶士が負ける事確定のようだ。
「勇者なんですから無茶士さんは強いと思いますから、ボクは十手で」
ヒットも無茶士が勝つとは思っていない。
「あたしは勇者はもっと粘ると思うから、二十手だ!キマシは?」
「わたしもギリと同じ二十手」
わいわいとお祭り騒ぎだ。
それも仕方のない事で、娯楽の少ない世界では些細な事が娯楽の対象となるのであった。
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